子どもの権利の内容

 人権のもっとも基底的なものは生存の権利であり、幸福追求の権利である。そして、子どもにとってのこれらの権利は、何よりも人間的環境のもとで肉体的、精神的健康が保たれ、人間的に成長、発達する権利だといえる。したがってその権利は、子どもの未来にかかわっている。そして、その権利の充実のためには、その発達段階にふさわしい学習と教育が保障されていなければならない。

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 子どもの生存権は、物質的、肉体的基底においてだけではなく、将来に亘っての人間的成長の権利であり、それは学習の権利を含む文化的視点を含んだ概念なのである。子どもにとっての生存権を、その将来に亘っての人間的成長・発達の権利を含んでとらえなおすとき、その発達の権利は、達切な学習の権利を含んでいる。これを子どもの発達と学習の権利として一つのカテゴリーにまとめることもできよう。
 そして、発達と学習の権利は、今日では教育を受ける権利として憲法上規定されるに至り、公教育制度を通して就学機会の保障を国と親に義務づけているのである。このような考え方は、今日では、すでに国際的に承認された教育の通念だと考えてよい。
 世界人権宣言はその第二六条で、すべての国民が教育を受ける権利をもつものと規定している。ユネスコの依嘱を受けて、ピアジエはこの条項を解説したが、そこでは、教育を受ける権利とは、発達の権利の保障として位置づけられている。ピアジエは、発達の生物学的決定論や、知能発達の前成説的誤謬を批判しつつ、発達は一定の段階をたどりながら、適切な環境のもとで、教育を通してとげられると主張する。そして教育を受ける権利とは、あらゆる発達の水準において、社会的または教育的要因が発達の条件をなしているということを主張することを含んでおり、したがって、教育をうけるという人権を肯定することは、各人に読み書き算の取得を保証するよりもはるかに重い責任を負わすことである。それは本当の意味ですべての子どもに彼らの精神的機能の全面的発達と、それらの機能を現在の社会生活に適応するまで行使することに対応する知識ならびに道徳的価値の獲得とを保証してやることである。
 しかも、その教育は、人間的個性の完全な開花と、基本的な人権と自由との尊重の強化をめざすものであり、そのためには体験と探求の自由が不可欠である。
 だからまた、教育をうける権利とは、学校に通学する権利だけではない。それは、教育が個性の完全な開花をめざすかざり、能動的な理性と生きた道徳的意識をつくりあげるのに必要なもの全部を学校のなかに見出す権利でもある。
 教育をうける権利は、だから、個人が自分の自由に行使できる可能性に応じて正常に発達する権利であって、それ以上でもそれ以下でもなく、社会にとっては、これらの可能性を有効かつ有用な実現に変える義務なのである。それは、個人のなかにかくされていて、社会が掘りおこさなくてはならない可能性の重要な部分を失わせたり他の可能性を窒息させたりしないで、それらの可能性を何一つ破壊もせず、だいなしにもしないという義務をひきうけることである。
 以上のように子どもの人権は、子どもの権利を合んで成立する。その中心は発達の可能態としての子どもが人間的に成長、発達する権利であり、そのための学習と探求の権利、そして、それを保障する教育への権利だと考えてよい。そして、もしこのような内容を含んでの子どもの人権が保障されていなければ、それは、その人間の将来に亘っての人間的諸権利、幸福追求の権利、真実を知る権利、思想の自由、さらには、政治への参加の権利等を有名無実化するものとなる。無知は専制の温床である。専制は、政治的文盲づくりのために教育制度をさえ利用しようとする。国民は知る権利をもっている。しかし知る能力が引き出されていないところで、知る権利を言うことは幻想でしかない。この意味において子どもの権利は人権の基底であり、子どもの発達と学習の権利は、人権中の人権といわねばならない。子どもの発達と学習の権利が充足されるためには人間的な環境のなかで、身体的・精神的健康が維持されねばならない。環境への権利と健康への権利は、子どもの権利の基底としての意味をもつ。
 児童権利宣言には、教育を受ける権利とともに、児童は、健康に発育しかつ成長する権利を有すると規定し、わが国、児童憲章も、児童はよい環境のなかで育てられるとうたっている。
 こうして今日、子どもの権利とは、ゆたかな環境のもとで、心身ともに健康に発達する権利であり、そのためにふさわしい学習の権利を中心とし、そのことによって、その他の人権に現実性を与えるものであり、その意味で人権において最も基底的な権利ということができよう。

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