住民の学習権

 市民は、地域住民として、その生活圏において生存し生活を営んでいるのであり、その生活の場としての地域が、開発政策のもとで崩壊しつつあると同時に、他方において地域住民の自治意識を喚起し、地域の自治体闘争は時とともに活発になってきている。そしてそのなかで、住民の学習権の自覚もまた高まってきた。
 住民運動とともに歩んできた宮本氏は「地域開発は、まず、資本、とくに巨大資本を規制しうる人民の権力が必要だ」とのべ、草の根民主主義の必要とともに、さらに、地域開発の基礎条件として、住民の文化の高さをあげ、「地域開発は自然・人間の健康・経済・文化のすべてに影響をあたえる。このような影響を総合的に判断しうるためには、住民の文化意識が高くなければならない。拠点開発を最初にストップさせた三島・沼津・清水二市一町の運動は、科学運動あるいは文化運動であったといってよい」とのべてその運動を紹介している。
 よく知られているように、三島・沼津の運動においては、教百回の学習会がくり返され、そこでは、住民の体験が重んじられ、抽象論からではなく具体的な事実から理論を学ぶ方法がとられた。そのなかで教師や専門科学者の果した役割は大きいが、しかし、それは彼らが啓蒙家として役割を果したのではなく、住民と専門家、教師が、対等の住民として自己教育するという原則がとられたのであり、そのなかで、研究者の研究をかえ、住民のなかから新しい研究的指導者が生まれてきたのであった。
 宮本氏は、つぎのようにその運動を総括してその著を結んでいる。「六〇年代からはじまった住民運動は無限の可能性をひめている。三島・沼津にはじまり、むつ小川原・志布志、沖縄へとつづく学習を土台とした住民運動は、まさに地方文化の高さをしめすものである。おそらく、研究者の研究をかえ、学際的協力をつくりだし、優れた思想家を生みだすのは住民である。住民が自らの地域の主人公として新しい開発の思想をもちはじめたときに科学は前進し、思想の体系がつくられるといってよい。その意味では、日本列島の未来は、住民の自己教育を土台にした地域の自治体連動にかかっているといえるかもしれない。」
 そして、いうまでもなく、地域住民運動は開発や公害反対運動だけでない。各地にみられる民主教育を守る会や、地域教育懇談会、父母の教科書学習会等、いまや教育運動は、教師の運動とともに地域住民の運動を視野に入れずして論ずることはできない。全入運動から教科書裁判支援に結集した力は、各地で新しい課題にとりくんでいる。他方、六〇年代に強行された多様化政策の破綻は、小学区制と地域総合高校の創出をいっそう切実かつ緊急の運動課題とするにいたった。そして、これらはいずれも、住民の文化運動、学習運動を含んではじめて可能なのであり、これからの政治連動の質をかえる動きに他ならない。このような動きのなかで、住民の学習権の自党がかつてなく高まってきたといってよい。

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 労働は本来人間の本質の自己実現であり、経験と学習をもとにしての構想力と創造性にその本来の姿がある。労働者が奴隷の労働(疎外労働)から脱して、労働の主人たるべきだという自覚と結びついて、労働への権利の実現をめざす運動のなかで、教育への権利かとらえなおされ、労働への権利要求は教育への権利要求と結びつけちれて要求されてきたことは、教育権思想の歴史の教えるところだといってよい。
 近代教育の思想は、イギリスでは、最初の労働者の自覚的運動であったチャーチスト運動のなかで、あるいは二月革命やパリ・コミューン、インターナショナルの歴史と結びついて、深められていった過程自体がこのことを物語っている。
 労働権と教育権の原理的な結びつきについての問題は一九七二年の教育法学会研究総会での、敏枝名の報告の中心テーマであった。そして最近では現実の労働運動のなかで、学習権要求は新しい形態をとり、国際的労働運動の一つの焦点を形成しつつある。たとえば、ILOは一九六五年の第四九回総会で「有給教育休暇に関する決議」を採択し、一九七一年の総評主催の職業訓練国際シンポジウムの共同コミュニケは「学校教育、養成訓練、成人教育を体系化し、労働者の要求にもとづいて、教育と訓練を受ける権利とそのための保障とが、全労働者の基本的権利として、確立されること」とうたっている。
 わが国においても、すでに一九六〇年代初頭に行なわれた総評・中立労連主催の職業技術教育研究集会第二回アピールにおいて、「すべての労働者は、年齢、性別にかかわりなく、公共的な職業技術教育を受ける権利があり、国はこれを保障しなければならない。とくに青年労働者の権利は尊重されなければならない」とのべていた。
 このように労働の権利と結びつく教育への権利の自党が内外の労働者階級の運動のなかで生れてきている。そして、このような職業技術教育を含めての労働者の学習権の自党の深まりは、他方で、企業の経営・管理の一環としてすすめられているいわゆる企業内教育・訓練の質をきびしく問いただす性質のものであるが、それは具体的には、たとえば国鉄労働者がマルセイ運動に対して、企業内での教育にも教育基本法の精神が貫徹されなければならないとして、これに抗議している動きのなかに、労働者の学習権の自覚の今日の水準が示されているといってよい。

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