憲法と教育基本法

 教育基本法は、前文でまず、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した」とのべ、日本国憲法における民主主義と平和主義の根本理念を確認し、「この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」とのべて、民主的で平和的な国家と社会の建設のために教育の果たす役割の大きさを示し、三項で、「ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい目本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する」とのべて、教育基本法の立法の趣旨を明示している。

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 その趣旨は、高橋誠一郎文相の提案理由説明をみればいっそう明白である。
 「民主的で平和的な国家再建の基礎を確立いたしまするがために、さきに憲法の画期的な改正が行われたのでありまして、これによりまして、ひとまず民主主義、平和主義の政治的、法律的な基礎がつくられたのであります。しかしながらこの基礎の上に立って、真に民主的で文化的な国家の建設を完成いたしまするとともに、世界の平和に寄与いたしますこと、すなわち立派な内容を充実させますることは、国民の今後の不断の努力にまたねばなりません。そしてこのことは、一にかかって教育の力にあると申しましても、あえて過言ではないと考えるのであります。かくの如き目的の達成のためには、この際教育の根本的刷新を断行いたしまするとともにその普及徹底を期することが何より肝要でございます。かかる教育刷新の第一前提といたしまして、新しい教育の根本理念を確立明示する必要があると存ずるのであります。さらに新憲法に定められておりまする教育に関係のある諸条文の精神を一層敷哲具体化いたしまして、教育上の諸原則を明示いたす必要を認めたのであります。」
 また、文相は、教育基本法の教育根本法としての特殊な性格にふれて、こうのべている。
 「この法案は、教育の理念を宵宮する意味で、教育宣言であるとも見られましょうし、また令後制定せらるべき各種の教育上の諸法令の準則を規定するという意味におきまして、実質的には、教育に関する根本法たる性格をもつものであると申し上げ得るかと存じます。従って本法案には、普通の法律には異例でありますところの前文を附した次第であります。」
 この文相の提案理由からも明らかなように教育基本法は、教育勅語に代わる教育理念を示すいわば教育宣言であると同時に、その他の教育法を導く、「教育法の中の根本法即ち、教育憲法」だといってよい。前文の文言が、そして文相の提案説明が示しているように、教育基本法は、なによりも教育が日本国憲法の精神に則り、その理想の実現を提うものであるべきこと、そのために教育の目的をさらに具体的に明示して、新しい日本の教育の基本を定め、教育実践と教育行政のあり方を方向づけるためのものであった。したがって日本国憲法のめざす理念は、そのまま教育基本法の理念だといってよい。
 ところで憲法の理念は、憲法前文に明確に示されている。そこでは、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」とのべ、民主主義を「人類普遍の原理」であり、全世界の国民が「平和のうちに生存する権利」を有することを確認している。
 基本的人権の尊重、民主主義、そして平和への努力こそは、憲法を貫く基本原則であった。憲法はさらに、最高法規の規定において、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と規定し、人権が人類のだたかいの遺産として、今日では普遍的原理として確認され、いまやそれは不可侵の権利であると特に強調されている。さらに、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とのべ、人権と自由の実現のための不断の努力をうながしている。国民は日常の生活のなかで、教育者は教育を通して、この努力をつみ重ねなければならない。この憲法は、幸福追求の自由、思想・信条の自由と並んで学問の自由を規定している。このことは、当然、国民の探究の自由、真実を知る権利をも、「精神の自由」の当然の帰結として認めていると解される。これは「憲法的自由」と呼ばれるにふさわしい。この国民の探究の自由、学習の自由を前提として、国民の教育への権利を明文化したものが憲浩二六条の教育規定である。しかも、教育への権利は、自由権的権利にとどまらず、それが、生存権、労働する権利と不可分の権利であることを条文の構成は示している。
 これは、教育を、兵役、納税と並ぶ国民の三大義務の一つとしてとらえる天皇制下の教学思想とは決定的に異なるものであった。

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