教育行政の理念

 教育の目的を実現するためには、教育行政は、時の政治権力から自律し、教育独自の価値と論理を尊重する教育行政のしくみがつくられることがとりわけ重要であった。その理念は教権の独立として表現された。田中耕太郎は、教権の独立の構造を機会あるごとに主張していたが、教育刷新委員会でも、教育行政のあり方について検討すべき点として、つぎのような考え方を提示した。
 「文部省なり、地方の行政官庁なりが終戦まで執って居った態度は我々の考から云ってはなはだ遠いものがあるのでありまして、文部省にしろあるいは行政官庁にしろ、教育界に対して外部から加えられるべき障害を排除するという点に意味があるのであります。要するに、学校行政はどういう風にやっていかなければならないものであるかということ、あるいは学問の自由、教育の自主性を強調しなければならないこと、あるいは他にあるかもしれませんが、そういう建前をもって教育の目的遂行に必要な色々な条件の整理確立を目的とするようにやっていかなければならぬというようなことを考えて居る」。
 ここにはすでに、教育の自主性を確保するために旧来の官僚統制を廃し、教育行政の任務を条件整備に限定しようとする教育基本法一〇条の精神が提示されていたといえよう。
 文部省の「教育基本法の解説」も、戦前の中央集権的教育行政をつぎのようにとらえていた。「この制度の精神及びこの制度は、教育行政が教育内容の面にまで立ち入った干渉をなすことを可能にし、遂には時代の政治力に服して、極端な国家主義的又は軍国主義イデオロギーによる教育、思想、学問の統制さえ容易に行われるに至らしめた制度であった。更に、地方教育行政は、一般内務行政の一部として、教育に関して十分な経験と理解のない内務系統の官吏によって指導せられてきた」と指摘し、「このような教育行政が行われるところに、はつらつたる生命をもつ、自由自主的な教育が生れることは極めて困難であった」とのべ、教育基本法一〇条を根幹とする教育行政の新たな転換の意味が、教育の自主性、自律性の尊重にあることを強調した。
 これらのことから明らかなように、戦後教育行政の理念も、戦前の中央集権的官僚統制主義の反省に立って、教育行政の任務を条件整備に限定し、教育内容への介入をさけて、政治に対する教育の自律性を確保し、さらに地方の実情に応じた個性的教育を創り出すことを援助することにおかれたのである。

スポンサーリンク

 教育基本法の成立は、国民の権利としての教育の観点を軸とし、教育と国家の関係を一変させ、従来、教育勅語と勅令に基づいて行なわれていた教育のあり方に対してもその転回をせまるものであった。高橋誠一郎文相は、教育基本法提案理由説明で、こうのべた。「これを定めまするにあたりましては、これまでのように、詔勅、勅令などの形式をとりまして、いわば上から与えられたものとしてではなく、国民の盛り上りまする熱意によりまして、定めるべきものでありまして、国民の代表者をもって構成せられておりまする議会におきまして、討議確定するために、法律をもっていたすことが新憲法の精神に適うものといたしまして、必要かつ適当であると存じた次第であります」。
 今後教育は、内容のみならす形式においても勅語や勅令から解放され、憲法の精神に則り国民の意思に基づく法律に則って行なわれるべきだとされた。当時の新聞も教育基本法の意義をつぎのようにのべている。
 「教育基本法が議会に提出されるのは、わが国の教育の根本義を国民代表者の総意によって討議確定するためであり、教育の指導理念を上からあたえられたものとしてではなく、人民みずから民主主義的に定めようとするところに重大な意義があるのである。形式は法律であっても、その実質は、新日本の「教育宣言」を人民みずから発することであり、民主革命の最も重要な一環をなすものである」。
 憲法、教育基本法体制の成立は教育勅語の失効を必然化した。憲法の前文には、「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」とあり、この憲法の成立によって明治憲法および教育勅語の排除は決定的なものとなった。
 教育基本法を中心とする教育改革について、当時の文部省報告書にも、つぎのように記されていた。
 「われわれは、教育基本法のもつ自由主義的思想の表現が、観念の純粋さ、美しさにおいて肯定されるばかりでなく、日本教育の悪い伝統を完全に改革するための現実的迫力を持つことを認めざるを得ない。」
 教育基本法は、その価値志向と、その価値を実現する手段ないしそれを保障するための法的行政的機構において、戦前の伝続から訣別するものであったのである。

子どもの発達と子どもの権利/ 新教育と子どもの権利/ 子どもの権利の構造/ 日本での子どもの権利の歴史的背景/ 子どもの権利の内容/ 子どもの権利は誰が守るか/ 人権と子どもの権利/ 学習権の問題/ 権利としての学習権/ 市民の学習権/ 住民の学習権/ 子供と青年の学習権/ 報道の自由と国民の学習権/ 学問の自由と国民の学習権/ 国民の教育権と学習権/ 問題としての教育権/ 国民主義と国民の学習権/ 子どもと青年の学習権/ 親の教育義務とその信託/ 学校と教職員の責務と権限/ 教育行政の責任と住民自治の原則/ 教育基本法体制/ 教育の淵源としての国体/ 学問教育の自由/ 義務教育の概念/ 教育基本法の成立/ 憲法と教育基本法/ 教育の目的/ 争点としての教育目的/ 教育行政の理念/ 教育基本法体制成立の意義/ 教育勅語の処理問題/ 地方自治原則の位置づけ方/ 戦後教育改革の抽象性/ 民主化の行き過ぎ是正/ 期待される人間像と教育基本法/ 国民教育運動の展開/ 学力テスト判例の蓄積と最高裁判決/ 戦後日本での法と教育の特殊性/ 教育固有の価値と教育法/ 人権の歴史性と普遍性/ 教育の自由と権利の展開/ 人権中の人権としての学習権/ 教育認識の発展と教育条理/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク