戦後教育改革の抽象性

 戦後教育改革の理念が現実のものとして定着することは容易ではなかった。戦後日本の民主的諸改革は、数年を経ずして、大きな障害の前にたたされることになった。国際情勢と占領政策の変化も見逃しえない。なかでも朝鮮戦争は、平和国家理念への対抗者を力づけ、旧勢力の復活のきっかけを与えるものであった。これを機にわが国は再軍備への第一歩をふみ出す。それ故にまた、朝鮮戦争は、平和教育の課題を改めて痛感させ、サンフランシスコ条約と日米安保体制は、民族の独立や祖国への愛の意味について、厳しい問いをつきつけるものであった。それはまた、新教育と教育目的についての反省をうながすものであった。一九五一年の春から夏にかけての上原専禄、宗権威他の「日本人の創造」と題する対談は、この時期の教育課題のとらえ直しをせまるものとして、重要な問題を提起していた。

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 上原専禄は、世界の問題が同時に民族の問題としてその解決をせまっている状況のなかで、「日本民族の運命を開拓し、その未来を構築すること、これは一体どうして可能であるだろうか。この設問に関連して要請せられるものが新しい日本人の形成という教育理念に外ならない」とのべて、独立の人格の担い手が同時に、課題としての民族の一員となること、さらにその新しい日本人が人類の一員として日本人全体が演ずる役割りを自覚すること、この三方面の自覚が同時におこなわれてこそ新しい日本人の形成の課題は、リアルな実現の可能性のある問題となってくるという。
 宗像誠也は、教育基本法の教育目的にふれて、これはもとより正しい、しかしながら何としてもこれでは抽象的過ぎるとのべ、戦前の教育に代わる。新しい具体的な目標、もっと生き生きとした目標にはっきり描き出されなければならないのではないか。それがなければ従来のものが本当には否定され得ないのではないか、そこで教育の目標を、もっと具体的な人間の姿として考えて、いわゆる人間像を描いてみたいという気持になります。つきつめれば、やはり日本人がどうあるべきかというはっきりした姿がまだ現われていない。少くとも一般の人に同感され、支持されるような新しい人間像があらわれてないということでしょう。とのべ、教育目的が抽象的な、よそよそしい観念にとどまるのではなく、子どもがどんな表情をし、どんな身のこなしをし、どんなもののいい方をするか、すべきか、そういうことになってはじめてその理念は生きたものになるのであり、そういうヴィジュアルな、目に見える形で教育の理想を描き出したい気持です。とのべていた。
 そしてこのような課題意識は、当時の独立と平和への努力をおします、民主主義教育を実践的におしすすめようとする教師たちの共通のものでもあった。その年の暮には、日光で第一回の教育研究大会がもたれ、平和と独立の課題が、教育問題として実践的視点から深められる第一歩がきり開かれ、また、時を前後して、民間教育研究団体が、自分たちの実践を上からの新教育に対置しながら戦後新教育の抽急性とそのオプティミズムの批判をいっせいに開始した。
 たとえば一九四九年七月に発足した歴史教育者協議会は、戦前の歴史教育の批判とともに、戦後、新教育の無国籍性と非系統性とを批判し、科学的な歴史教育をつくりだすために結成されたが、その設立趣意書には、「私たちはかぎりなく祖国を愛するとのべ、歴史教育は、国家主義と相容れないと同時に、祖国のない世界主義も相容れないのであって、国家の自主独立が真の国際主義の前提であるという歴史的事実と理論にかんがみ、正しい歴史教育は正当な国民的自信と国際的精神を鼓舞するものでなくてはならないとし、さらに、歴史教育は、厳密な歴史学に立脚し、正しい教育理論にのみ依拠すべきものであって、学問的、教育的真理以外の何ものからも独立していなければならないとのべている。以後歴教協は民族の課題を科学的に明らかにし、民族の独立を果たすことが、平和と民主主義の実現に不可欠であることを、科学的研究と教育実践を通して主張し続けてきた。
 一九五二年に再建された教育科学研究会もその指標で、私たちは、日本国憲法と教育基本法とにあらわされている平和と民主主義をめざす日本の教育をおしすすめ、国の独立の基礎をきずく仕事を誠実にやっていきたいとのべ、教育の目標を、日本の子どもたちが、国民としてたいせつな学力を身につけ、集団生活のなかで自主性をそなえた社会人となるように教育する。そのために、子どもたちが、人権を尊重する精神につらぬかれ、ゆたかな感情をもち、合理的にものを見、考え、行動するように指導するとともに、こんにちの社会の悪影響にうちかっていく力と、幸福な未来へのみとおしとをもつように育てあげるとのべ、教師、父母、青年との話し合いと連帯のなかで、正しい国民教育を創造していく仕事へのとりくみを開始した。
 その他、民間教育研究団体連絡協議会に参加している諸研究団体や日教組教研で、各教科や教育問題領域の研究の深まりを通して国民的課題は自党化され、国民教育は創造の課題として、共通に確認されてきた。

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