教育固有の価値と教育法

 戦後の教育の歴史は、憲法と教育基本法をめぐる対立抗争の歴史でもあった。この間、政府自民党の文教政策のなかで、憲法、教育基本法は無視され、これら上位法に違反する立法や法解釈によって教育の自由が奪われてきた。また教員研修においては、とりわけ最近の動きとして、教育法規の公権的解釈の訓練が、重要な研修テーマとなってきた。こうして教育界では、憲法・教育基本法のタブー視が進行している反面、権力による恣意的な立法政策のもとで、法規万能主義的傾向が風扉するという、まことに奇妙な現象がみられる。

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 ところで、近代国家においては法に基づく行政が原則であり、教育行政にも、法に基づいて権力の行使の自己統制が求められる。立法とそれに基づく行政は、本来、国民の権利を守り、生活の安全と福祉を保障するためにあるべきである。教育行政も、まさしくその観点から、法律に基づき、同時に一定の範囲の行政的裁量が認められている。その際、教育そのものは教育行政とどう関係しているのであろうか。
 政府、文部省の教育統制の論理においては、教育の実施は、教育行政の管理のもとでの教育行政の具体的施行だと考えられている。ここには教師の自由と教育の自律性の存在する余地はない。しかし、法律、行政、実践の関係は、教育実践が教育行政そのものではありえない以上、一方的方向に系列化されるものではありえない。教育と法の間には、教育の固有性とかかわっての独自の関係が成立し、法体系そのものもそれが単に行政法の一部門や労働法の一部門としてではない、教育法としての独特の体系が予想される。兼子仁も、「教育法は教育にかかわる独特な法論理からなる新しい法であるから、そこではとりわけ条理や条理解釈というものが重要である」とのべ、現行教育法を正しく解釈していくため、教育条理を見きわめることが重要だと指摘している。
 それでは、教育法を独特の体系たらしめている法理論とそれを支えている教育条理とは何なのか。端的にいって、教育は法に基づく行政そのものではなく、それは、人間の発達に自覚的、法則的にかかわる価値的、創造的実践だという点に求められる。教育という実践の総体は法律主義を越えている。法律によって教育の自律性を奪うことは、教育を教化に転化させるものに他ならない。
 われわれはここで、もう一度教育における法律主義、とりわけその勅令主義から法律主義への転換の意味を考えてみたい。
 そもそも、この転換は、戦前の国民不在の天皇制教育体制のもとで、教育が勅語を軸に、天皇の命令に基づいて一方的に行なわれたのに対して、憲法、教育基本法のもとでは、教育はなによりも国民の権利であるという自覚のもとに、国民の意思に基づいて行なわれるべきことを意味していた。そして、この転換を媒介するものこそ国民主権と人権の原理に他ならなかった。したがって、勅令主義から法律主義への転換には、教育への公権力の統制を排除し、その自律性を法律によって保障するという契機が含まれていた。これは、この転換の重要な含意だったのである。
 教育法が教育行政からの教育の自律性を保障しているということは、教育法という新しい法原理が、それがまさに対象としている教育に固有の法則と固有の価値を認め、したがって、それに対する立法や行政による統制を排除するということを、その法原理そのものとして認めるということに他ならない。そしてこの観点を放棄するとすれば、それは教育法の独自性を放棄することに通じている。その意味では、戦前においては教育を対象とするあれこれの法規はあっても、それは行政法の部分としてあったのであり、固有の意味での教育法は存在する余地はなかったというべきである。

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