教育の自由と権利の展開

 憲法の原理を歴史的、発展的視点からとらえ、教育基本法をそれに準じて把握するとすれば、今日われわれが憲法、教育基本法体制としてとらえるとらえ方も、歴史的な視点において成立するものであり、それが憲法、教育基本法の絶対視・神聖不可侵視とは無縁のものだということがまず了解されていなければならない。
 そして、現行法規の条文の意味も、教育実践の理論的総括に媒介されて、たえず問い直され、ゆたかに発展させられねばならないものである。それを発展させるものが教育実践の総体であり、それを貫いて教育の原理とその条理もまた展開する。しかも、この教育実践の総体が、国民の民主主義的力量と人権思想の深まりに励まされ、不可分に支え合ってきたことも忘れてはならない。

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 教育の自由の原理にしても、これが法制的に保障されたとき、それは、まず、私立学校設立の自由としての意味をもつものであった。しかし教育の自由の原理はそこにとどまるものではない。この原理は、教育の権力からの独立という意味における私事性、中立性の概念とセットになって、子どもの権利と教育の自由を中心とする新教育の思想と運動のなかで歴史的に展開してきたものである。
 アメリカの新教育運動の指導者のひとりH・K・ビールは、「子どもの自由と自己発達は、進歩主義教育のエッセンスである」とのべ、子どもの自由と創造性の開花のためには、教師の自由が不可欠だとのべている。
 B・ラッセルは、この自由について、それが「ルソーの時代以来、自由の一般的信条の一部である」とのべ、続いて「奇妙なことに、政治的自由主義は義務教育の信念と関連しており、教育における自由の信念は、大概は社会主義者の中に、そして、共産主義者の中にさえ存在する」とのべ、教育の自由が、古くて新しい課題であり、それ自体が生成しつつある原理であることを示唆している。
 以上の簡単な指摘からもわかるように、教育における権利と自由の思想は、一八世紀啓蒙思想に起源をもつが、しかし、二〇世紀に入ってから、とりわけ第一次大戦後の民主主義と平和への願いと結びついて高揚期を迎えた国際新教育運動のなかで、大きく発展した。この運動のなかで、ワロンやピアジエ、あるいはデューイやラッセル、さらにはクループスカヤやマカレンコらの果した役割は大きい。
 これらの国際的な民主的教育運動をふまえて、さらに第二次大戦と反ファッショ統一戦線の経験を背景にして、世界人権宣言、とりわけその教育条項は生み出されたといえよう。そしてその文言の解釈にも、教育運動の成果と発達と教育の科学についての知見が反映している。ユネスコの依頼を受けて、この条項の解説を書いたピアジエは、そのなかでつぎのようにのべている。
 教育をうける権利は、個人が自分の自由に行使できる可能性に応じて正常に発達する権利」であり、それは、「本当の意味ですべての子どもに彼らの精神的機能の全面的発達を保障し、それに対応する知識ならびに道徳的価値の獲得を保障してやることである。それは、個人のなかにかくされていて、社会が掘りおこさなくてはならない可能性の重要な部分を失わせたり他の可能性を窒息させたりしないで、それらの可能性を何一つ破壊もせず、だいなしにもしないという義務をひきうけることである。教育をうける権利とは、学校に通学する権利だけではない。それは、教育が個性の完全な開花をめざすかぎり、能動的な理性と生きた道徳的意識をつくりあげるのに必要なもの全部を学校のなかに見出す権利でもある。

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