戦後改革における人権保障と教育のかかわり

 戦後日本における憲法変革と教育改革とは、同時的であり、きわめて有機的なつながりを有していた。日本国憲法は一九四六年の六月から一〇月にかけての第九〇帝国議会で審議制定されて、一一月三日に公布、翌一九四七年五月三日から施行された。他方、一九四六年九月に発足した教育刷新委員会を中心として教育改革方針とともにねり上げられた教育基本法は、翌四七年三月三一目に第九二帝国議会で可決され即日施行されるところとなった。この間における新憲法制定と教育改革との歴史社会的および思想的なむすびつきについては、すでに優れた研究が十分になされている。ここでは、日本に憲法王の人権保障がはじめてもたらされたことと、戦後教育改革における人間教育というものの社会的確認とが、どのような論理的むすびつきを有していたかを確かめるのにとどめよう。

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 いうまでもなく人権は、人が人間らしく扱われることの憲法的保障である。すべての人を個人として尊重し人間に値する生存を憲法が保障する、という人権保障は、日本では第二次大戦での犠牲のうえにようやく、日本国憲法によって、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果を継承してなされえたのであった。明治憲法も外見的な人権宣言を書いてはいたが、すべては法律、勅令の範囲内とされ、法論理的にも現実にも真の人権保障は無かったのであって、逆に臣民の義務が非常に強調されていたのであった。
 人権保障は人間生活のすべての部面にわたらなければならないが、とりわけ人間を育て伸ばしていく教育にあっては、人を真に人間らしく扱う人権保障のしくみと考え方とが、根本的に重要なものとしてふまえられていなければならないであろう。ところが、日本で、この人権をふまえた教育という考え方をはっきりさせるためには、第一に、戦前いらいの国家教育観、教育はもっぱら国家が自由に決めて行なう事業だという考え方を、転換させていく必要があった。このことの重要さは、戦後にも存続している義務教育制度の理解をめぐって、のちにあらためて確かめることにしたい。第二に、日本人は人権をふまえた教育ということを、とくに意識的に人権保障と教育とをむすびつけて考えながら実現していく必要があろう。西欧諸国では一九世紀いらい長い近代歴史の間に、徐々におのずから、人権と実質上それをふまえた教育とをつくり上げることになったわけであるが、日本社会では戦後に一気に、人権とそれをふまえた人間教育とを、意識すると同時に実現していかなければならなかったのだからである。
 教育基本法が、法律によって戦後教育にかんする理念を規定したことには、まさにその二つの理由、国家教育から人間教育への転換を社会的に確認する必要と、人権憲法をふまえた教育づくりを意識的に行なう必要とが、かかわっていたと見られるのである。教育基本法の前文と一・二条は、人間教育ということと、平和のうちに生存する権利をふくむところの人権をふまえた教育との、社会的確認を表明していると読めよう。前文「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。」
 一条「(教育の目的)教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」
 二条「(教育の方針)教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。」
 つぎに、教育基本法におけるその他の条項と憲法の人権条項とのつながりを整理してみると、およそつぎのとおりである。
 三条「教育の機会均等」憲法一四条(平等権)、二六条一項(ひとしく教育をうける権利)
 四条「義務教育」、七条「社会教育」の振興、憲法二六条(教育をうける権利)
 五条「男女共学」憲法一四条(平等権)、二四条(両性平等権)
 六条「学校教育」の公共性と教員の身分・労働条件の保障、憲法二六条(子どもの教育をうける権利)、二七・ニ八条(労働基本権)
 八条「政治教育」憲法一五条(参政権)、一九条(思想の自由)、二一条一項(表現の自由)
 九条「宗教教育」憲法ニ〇条(信教の自由)、一九条(思想良心の自由)一〇条「教育行政」と教育の自主性―?憲法二三条(学問の自由)、二六条(教育をうける権利に応ずる国家の条件整備義務)
 このように教育基本法は、内容的に教育憲法と呼ばれうるものであるが、ほんらい人権憲法なるがゆえに教育に実現されるべきことを法律で定めるのが当然だというわけでは必ずしもないであろう。むしろ、教育基本法という法律を、戦後教育改革において教育勅語に代置させる形で制定したことは、戦後日本の公教育をめぐる前述の歴史的理由に依っていたと見られるのである。
 とはいえ、人権と教育とのむすびつきを公に確認する必要は、第二次大戦後においては、相当程度世界的に共通していたこともまた、たしかである。国連の人権に関する世界宣言が教育をうける権利条項において、「教育は、人格の完全な発展と人権及び基本的自由の尊重の強化とを目的としなければならない。」と書いているし、また、児童権利宣言も、子どもの人権を意識した、進んだ教育をうける権利条項を設けている。さらに、ILOとユネスコの共同会議にもとづく、教員の地位に関する勧告は、ほぼあらゆる人権に連なる教師の権利保障をリストアップしており、そのもようは後述するとおりである。

戦後改革における人権保障と教育のかかわり/ 障害児に関する就学義務猶予、免除/ 国公立学校における特別権力関係/ 私学における人権保障の適用/ 教育に関わる一般人権と教育人権との区別/ 教育に固有な人権としての教育人権/ 子ども達の生命、身体権について/ 学校施設での環境の悪さによる人命事故/ 教育活動条件の悪さによる自身事故/ 人身事故を招いている体罰/ 子どもの健康権と学校給食/ 子どもの私生活の自由とプライバシー/ 学校活動と家庭プライバシー/ 公教育における思想良心の自由/ 愛国教育と思想良心の自由/ 学生生徒の政治活動の自由と校内教育の秩序/ 平等権と家庭科の女子必修問題/ 私生活の自由と教職員の服務規則/ 思想良心の自由と教育員人事/ 教師の政治活動の自由とその制約/ 教職員の休息権/ 教職員の労働基本権/ 子どもの教育をうける権利/ 能力に応じて教育を受ける権利/ 学習権と社会教育/ わが子の教育に関する親の選択の自由/ 文化を担う国民の教育参加の自由/ 私学教育の自由と公費助成/ 教師の教育権の複合的性格/ 学問の自由と教師の教育研究発表の自由/ 教師の教育の自由と子どもの学習権/ 教育界における人権保障方式/

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