子どもの健康権と学校給食

 現代においては、人はただ生命と身体の安全を守られているだけでなく、健康に生きつづけることを保障されなければならない。この健康に生きることは、憲法一三条にいう「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」のうちに元来ふくまれているはずであるが、さらに二五条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」すなわち生存権の一種として、国家によって積極的に実現されていくべき国民の健康権が保障されるにいたっていると解される。そしてたしかに今日では、包括医療体制への要求や反公害運動などにかかわって、健康権という新しい人権が問題にされるとともに、医学その他の保健関係科学の進歩によって、生命権とは一応区別された健康権の保障が技術的にも可能になってきているのです。
 健康に生きることは、人間の成長の前提条件でもあるから、健康権は子どもにとっていっそう重要な人権であろう。というより、子どもたちは健康であれば成長していくのであるから、健康に育つ権利、成長権として、のちに教育人権として見る人間的発達権ともつながるものと言えよう。
 児童福祉法二条が国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。と規定しているのは、憲法二五条の下で、子どもの人権に対応しているものと読むべきであろう。国連の児童権利宣言四条には、よりはっきりと「児童は、健康に発育し成長する権利を有する。と書かれているのである。そこで子どもたちは、家庭と並ぶ生活と成長の場である学校において、まさに健康権、成長夜を十分に保障されなくてはならない。
 学校において子どもの健康権を保障するしくみといえば、まず、学校保健法にもとづく、学校保健が挙げられよう。保健主事、養護教諭、学校医、学校歯科医、学校薬剤師などが保健室を主たる現場として働く学校保健はもとより重要であり、そこにもいろいろな問題点があろう。しかし、ここでは、子どもたちの健康権、成長権に大きくかかわり、しかもこんにちその問題性が強く指摘されつつある学校給食を取りあげることにしたい。

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 「学校給食は、当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものとする。」「学校給食は、年間を通じ、原則として毎週五回以上、授業日の昼食時に実施されるものとする。」と学校給食実施基準に定められており、実際にほとんどの国公立小・中学校で、多くの父母の要望を得て行なわれている。しかし、すべての児童・生徒に有料の学校給食を義務づけることの法制的根拠についてはいぜん問題をのこしており、学校給食と学校教育とのかかわり、給食の教育的意味についても、明確さを欠いている。なるほど学校給食法二条には、「義務教育諸学校における教育の目的を実現するために」学校給食が目ざすべき目標として、「食生活の合理化、栄養の改善及び健康の増進を図ること」のほか、「日常生活における食事について、正しい理解と望ましい習慣を養うこと。」「学校生活を豊かにし、明るい社交性を養うこと。」が挙げられているが、給食を通じて十分な教育を行なうには、先生たちの給食事務負担の膨大さをはじめ、給食教育条件があまりにも不備であり、その改善整備が強く要求されている。
 しかし、そのような学校給食を通ずる子どもの学習権の教育的・精神的保障もさることながら、ここで問うているのは、それ以前に、現在の給食が子どもたちの健康権・身体的成長権を保障しているかどうか、それを損なってはいないかどうか、ということである。その場合に、行政管理庁が問題にした給食施設の衛生基準違反や食品公害的原因にもとづく集団食中毒による被害となると、これはもう前述の生命・身体権の問題になってしまう。そういうことがなくても、子どもたちが食べのこす、不味い給食や不適切食品の給食によって、子どもたちの健康に育つ権利・成長権が損なわれていはしないかが、懸念されている。
 学校給食の食べのこしがどこでも相当量有る事実は、公知であろう。子どもが当然食べてしかるべき給食内容であれば、偏食が給食生活指導によって是正されていくことは、その子の健康的成長権の保障になる。しかし、こんにち多くの子どもが給食がまずくて食べられないと言って残すことに、学校給食体制のあり方にかかわる相当な原因が有るならば、むしろ子どもたちによる権利主張と見なければならないであろう。
 さらにここにかかわる制度問題として、学校栄養士の配置と働きということがある。「学校給食法」五条の三では「学校給食の栄養に関する専門的事項をつかさどる職員は、栄養士の免許を有する者で学校給食の実施に必要な知識又は経験を有するものでなければならない」と規定されているが、現実には三校に一名程度しか栄養士が置かれておらず、栄養士一校一名配置の要求運動が各地で起きているという。そして各学校ごとの栄養士の働きについて、こう指摘されている。「栄養士さんを一校に一名配置する目的は、先生方の事務量を軽減することよりも、給食そのものの内容の向上、質の向上です。子どもたちの命をまもり、命を育てる給食であることを考えたら、けっして先生が教務の片手間にやるような仕事ではないはずです。」「調理士さんの労働オーバーを考えると、こみいった献立てはむりな点もあるとおもいますが、栄養士さんがいて、食品購入のはあいその日の物価の変動や季節感をもりあわせることや子どもの希望、調理士さんの疲労の度あいなど、こまかい点まで心をくばって、もっともよい条件で調埋かおこなわれれば、たとえかんたんな献立であっても、子どもがよろこんでのこさずたべるたのしい給食ができるはずだとおもうのです。そういう例は実際にたくさんあります。」
 学校給食体制の改革には、少なくとも、子どもたちの健康に成長する人権の保障が意識されている必要があると言えよう。

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