学習権と社会教育

 現代において、子どもは現実に特別な発達の可能態として、学習によって人間らしく成長発達していく人権の最たる主体であることが明らかにされてきている。とくに児童の人権とされるものは、二〇世紀憲法における社会権、生存権として、児童福祉権をはじめとして登場してきた。学習権はその文化的発展であって、教育学をふくむ現代児童科学のうらづけを得て、特別な発達の可能態と捉えられた、子どもが人権主体性を認められたわけである。
 かくして、子どもの学習権説は、教育をうける権利が独特な教育人権であるゆえんを明示したのであるが、ついで、学習による人間的な成長発達が人間の一生を通じて成人にもありうると見られれば、学習権は成人の人権でもあると考えられよう。現に教育をうける権利の主体は、何人や、すべて国民と表現されている。こんにちの日本で、人権をふまえた社会教育を考えるとき、つぎにのべるとおり、成人の学習権、人間的発達権がやはり機軸になってよいと思われる。

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 ところで実はドイツにあっては、近年の憲法学説において、基本法二条一項が人権の基本として書いている。人格を自由に発展させる権利を活かして、教育をうける権利を子どもの学校における自己発展の権利であると理解する向きが有る。この立場においては、むしろより容易に、成人の人格発展の権利としての教育人権が捉えられうるであろう。
 この人格発展権説は、当然ながら、教育をうける権利にふくまれる現代的自由としての、自由な人間教育の保障という面を重視しているであろう。それはもとより大切であるが、学習権説は、教育の専門性によるすべての人間の能力発達の保障を、現代の人間教育においてより重要と見ていることになる。
 成人教育としての社会教育は、戦後教育改革で新たに重視されていらい、こんにちの公教育においてますます比重を増してきている。そして近年、国策的に提唱された生涯教育をめぐる論議もおきている。しかしいずれにせよ社会教育である以上、国民の教育をうける人権をふまえたものでなければならない。そして学習権説に立てば、社会教育も十分に専門性高く成人学習者の人間的な能力発達を保障する活動であるべきものではなかろうか。
 成人の学習権にあっては、たしかに第一部でのべられているとおり、真実を知る権利や住民自治権などとのかかわりも目立つ。しかし固有な教育人権としての成人学習権の主要な中身は、やはり一人ひとりの人間的発達権であるように考えられる。もとより成人の人間的な発達の法則は究めがたいものであろうが、青年から老年にいたる人生の各時期と個性とに見合った各人の発達課題を、なるべく専門性高く追求していく教育、学習活動であってこそ、人権をふまえた社会教育であると言えよう。そしてこの意味合いは、公費助成をうけうる、公教育としての社会教育活動の見定めにあたっても、活かされえよう。
 社会教育の具体的な中身は、文芸学習、職業訓練、政治教育、住民達動的学習、文化財擁護など多様でありうるが、国策的、政治的に歪められることのない社会教育の機軸は、成人の学習権、人間的発達権という教育をうける人権をふまえた社会教育に有ると考えられるのである。
 このように成人の学習権も学習による人間的発達の権利と捉えたときに、子どものそれと総合されえて、国民の学習権を、固有な教育人権として語ることができるであろう。

戦後改革における人権保障と教育のかかわり/ 障害児に関する就学義務猶予、免除/ 国公立学校における特別権力関係/ 私学における人権保障の適用/ 教育に関わる一般人権と教育人権との区別/ 教育に固有な人権としての教育人権/ 子ども達の生命、身体権について/ 学校施設での環境の悪さによる人命事故/ 教育活動条件の悪さによる自身事故/ 人身事故を招いている体罰/ 子どもの健康権と学校給食/ 子どもの私生活の自由とプライバシー/ 学校活動と家庭プライバシー/ 公教育における思想良心の自由/ 愛国教育と思想良心の自由/ 学生生徒の政治活動の自由と校内教育の秩序/ 平等権と家庭科の女子必修問題/ 私生活の自由と教職員の服務規則/ 思想良心の自由と教育員人事/ 教師の政治活動の自由とその制約/ 教職員の休息権/ 教職員の労働基本権/ 子どもの教育をうける権利/ 能力に応じて教育を受ける権利/ 学習権と社会教育/ わが子の教育に関する親の選択の自由/ 文化を担う国民の教育参加の自由/ 私学教育の自由と公費助成/ 教師の教育権の複合的性格/ 学問の自由と教師の教育研究発表の自由/ 教師の教育の自由と子どもの学習権/ 教育界における人権保障方式/

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