わが子の教育に関する親の選択の自由

 世界人権宣言二六条三項によれば、「親は、その子に与えられる教育の種類を選択する優先的権利を有する。」ここには、宗教教育選択の自由を中心とする親の教育の自由がふくまれている。わが国では親の宗教教育の自由がさして問題にされなかったからであろう、ドイツ基本法などとは異なり日本国憲法では、わが子にかんする親の教育の自由について規定していない。しかし近代憲法いらい普遍的な、親の教育の自由を、日本国憲法が保障していないとは考えられない。
 親の子にたいする家庭教育の自由は、近代憲法下においては多分に私生活の自由に吸収されていたと見られるが、現代公教育においてわが子にかんし親が教育選択をする自由となると、これは社会権保障の場における現代的自由として、その存否が特に問われることになろう。そしてすでにのべたとおり、公教育における思想、良心の自由が問題になる場面では、親が思想、良心の見地から教育の選択ないし拒否の自由を働かせうるものと解されよう。親の教育人権は、それを超えた所で問われる。

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 子どもの学習権が法制的に確認されたこんにちにおいては、親の子にかんする教育の自由は、たんなる監護の自由を超えた教育人権として、子の学習権に対応するものと考えなければならない。そして近代的な人間教育の原理としては、子どもはみすからの個性ある人間的成長発達にふさわしい教育をうけて学習していく、学習の自由を持っていると解される。親の教育の自由は、子の学習の自由に対応し代位しうるものにほかならない。日本国憲法では両者ともに明記されてはいないが、条理上当然に保障されるべき、憲法的自由に属することは否定できまい。また、学問の自由を、専門的な学問研究の自由に限らず、ひろく学問学習の自由をもふくむものと解しうれば、子の学習の自由と親の教育の自由はともどもに、学問の自由の保障にふくまれることになろう。
 ところで、こんにちの公教育学校にかんして、子の学習の自由と親の教育の自由は、たとえばどのような具体的意味を持ちうるであろうか。子どもの学習権のなかで、人間的能力発達が教育専門的に保障されていくべき学校教育内容については、学校教師の教育決定権が対応することになるが、各人の人生の幸福をめざし個性に応じた人間的成長を期すべき学校教育内容については、親と子のほうに多分に選択の自由が残されているべきであろう。
 第一に、私立学校を主にした学校選択の自由が無くてはならない。これに対応して公教育法制下にも私学教育の自由が有るべきことになるが、ここでは、各私学が長い年月をかけて自由につくりあげてきた校風が、子ども、生徒のいろいろな個性を伴う人間的成長のために貴重と見られていることになる。これに対して、居住地域ごとに設けられている公立学校制度にあっては、国や自治体が子どもの学習権保障のために積極的に行なった条件整備の成果を活かすという理由から、各家庭の学校選択の自由は大幅に制約される。しかしそれが教育人権侵害にならないためには、学校差をできるだけ無くする条件整備がなされることと、各学校の教育自治において十分な父母、生徒の参加および教育選択の余地が認められている必要が有る、と言えよう。
 そこで第二に、学校内にあっても、親と生徒の側に、選択教科、自由参加行事・クラブ活勤などについてしかるべき教育選択の自由ないし拒否権が予定されているのが相当であろう。しかしその範囲を越えて、教師を選択する自由というものは一般には認められない。集団的な学校教育のしくみにあっては、学校教師も集団自治的に存在しているのであって、原則として学校教師については親と子が家庭教師のように個人的に選択すべき筋合ではないからである。親にとって学校教師は、原則としてあくまで教育要求を向けていく相手なのである。
 なお、親の教育選択の自由と子の学習の自由との衝突も、まま有りうる。国連の児童権利宣言七条二項によれば、「児童の教育について責任を有する者は、児童の最善の利益をその指導の原則としなければならない。その責任は、まず第一に児童の両親にある。」しかし子本人の人格や意思の尊重はもとより必要なわけであって、教育の自由を持つ親としては、子の最善の利益の見定めについて教育的な指導性が示せるようでなくてはならない。

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