義務教育と父母の地位

憲法二六条二項および教育基本法四条一項は、国民に対して、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負わせています。義務教育制度は明治一九年の小学校令から実施されましたが、戦前においては義務教育は、国家が国家のための教育を国民に強制することを意味し、親権者が子どもを就学させることは、国家が親権者に負わせる公法上の義務とみなされていました。教育が兵役、納税と並んで国民の三大義務とされていたと同時に、民法における親権も、通説的理解によれば、公的義務と把握されていました。これに対して現行の義務教育制度は、憲法二六条が教育を受ける権利を定め、教育基本法以下の教育関係語法が憲法理念に従った教育の具体的あり方を規定していることによって、戦前とはその意味を質的に異にすると考えられます。すなわち、子どもの教育を受ける権利を現実に保障すること、言い換えれば、子どもに対して親権者、国、地方自治体がその権利を保障する義務を負うことが、現行の義務教育制度の趣旨であるといえます。

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義務教育制度における義務の主体は、保護すべき子女を有する国民ですが、具体的には保護者(子女に対して親権を行う者、親権を行う者のないときは、後見人)通常は父母です。ただし、ときには父もしくは母のみの場合があります。
義務の内容として、ここにいう義務とは、国民がその保護する子女を、小学校および中学校または盲学校、聾学校もしくは養護学校の小学部および中学部に就学させる義務をいいます。保護者が、その就学義務を正当な事由なく履行しないとき、罰金に処せられます。ただ、特定の事由があるとき、保護者の願い出にもとづいて、就学義務が猶予または免除されうります。しかし、この就学義務の猶予、免除の制度については、義務教育制度が子どもの教育を受ける権利を保障する親権者、国、地方自治体の義務であると考える現行憲法下の教育法制の原則に照らせば、問題がないわけではありません。
子どもの教育を受ける権利が中心にすえられるならば、その権利を実現するために一定の条件と内実の保障が必要となります。親権の濫用による子どもの教育を受ける権利の侵害は許されません。父母の就学義務の不履行は、社会的に監視される。それ故、子どもの教育を受ける権利に対応して、父母は、第一次的には義務者です。ところが義務教育は、この義務を履行しうる条件が存在しなければ実現されえません。そのために必要な制度および学校の確立が不可欠となります。したがって、父母は、子どもの教育を受ける権利を実現し、就学義務を履行するために、国、地方自治体に対して、教育の諸条件の整備、充実を要求する権利者としての地位を得ることになります。
国は、このような子どもと父母の権利に対応して、国民に負わせた就学義務を国民ができるだけ容易に履行しうるような持説をとる義務と責任を負うものと考えられます。子どもの権利の充実のために、学校を設置し、教育、学習条件を整備し、就学条件を確保する措置をすみやかにとることが、国に要請されているといえます。

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