教育の自主性確保

教育基本法一〇条一項は、「教育は、不当な支配に服することかく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」とうたっているが、この立法趣旨は、教育の自主性の確保を述べたものです。教育の自主性確保は、なによりも教育の本質から要請されます。教育が真理に忠実であり、個人の尊厳を重んじて個性豊かな人間を育成するためには、様々な創意工夫が必要であり、自由ではつらつとした教育こそ発展が期待できます。子ども一人ひとりに行き届いた教育を行い、その学習の権利を保障するためにこそ、教育は自主的、創造的に行われなければなりません。
不当な支配とは、歴史的には、教育が自主性を失うような国家の権力支配を意味していますが、そればかりではなく、教育の自主性確保の要請から、権力的強制がなじまないこと、教育の非権カ性を明らかにしたものです。
不当な支配が教育の自主性を守るために禁止される状態を意味するのに対し、国民全体に対し直接責任は、それに積極的意味を付与したものです。すなわち、不当な権力支配を斥けた教育が、独善や恣意のうちに行われてよいというのではなく、国民全体の教育への期待と要求を受けとめ、それに沿って行われなければならないからです。

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教育基本法一〇条一項から、教育と教育行政についての重要な原則が導きだされます。
第一は、教師の教育権の独立の原則です。教育は、教師が科学的真実にもとづいて子どもに働きかけ、子どもの最大限の発達の可能性をひきだす活動であるため、教師の教育活動の自由が保障されなければなりません。特に国民全体に直接責任を負うとしていることは、教師が他の公務員のように、文部省や教育委員会など教育行政当局の命令に服するという形で、国民に間接的に責任を負うのではなく、自主的な責任ある教育活動をもって、直接、父母、国民の教育への期待にこたえていかなければならないことを意味しています。したがって、教師が国民の教育意思が何であるかを知るには、国民の総意が反映される国会を通ずる以外にないという、国民、国会、政府、教育行政という議会制のルートを強調し、教師が教育行政の支配に服することを説く議会主義論は、直接責任の真義を見落したものといえます。
なお、今日、教師の教育権の独立は、教師一人ひとりの権限を意味するにとどまらず、学校教職員集団の教育権の独立(学校自治)としてもとらえ直されています。
第二は、文部省や教育委員会など教育行政が、教育内容や教育活動についてなしうるのは指導助言にとどまるという原則です。なお、相手を強制しない指導助言なら、中身を問われないということではなく、あくま で、憲法、教育基本法の趣旨にそうような民主的な内容をもったものでなければなりません。
第三に、教育基本法一〇条の教育の自主性確保は、教育行政の地方自治原則を意味しています。
戦後改革により、文部省の集権的支配から脱却し、教育行政の地方分権化が行われました。特に、一九四八年の教育委員会法(旧法)により、地域住民の直接選挙によって教育委員を選ぶという公選制の教育委員会制度が設けられました。教育委員会は、文部省と対等の地位に立つとともに、教育の自主性を制度的にも機能的にも保障する措置として、知事、市町村長のもとに属しない自主独立の教育行政機関であるとされました。
教育委員会法(旧法)の第一条は、教育基本法一〇条一項の文言をくりかえすとともに、公正な民意により、地方の実情に即した教育行政を実現することを目的としました。これは、地域住民の教育意思を公正に実現し、教育行政の民主化をはかり、地域住民の代表者により地域の実情に即した教育行政を行うということです。ここには、教育は地域のものであり、教育の住民自治を実現するという理想が流れていました。
一九五六年、地方教育行政の組織及び運営に関する法律により、公選制は廃止され、任命制教育委員会制度が発足しました。教育行政の集権的支配が復活し、官僚統制を本質とする学校管理体制の強化が、教育内容の国家統制と相まって促進されました。教育委員会の多くは、自主性を失い、文部省の下部機関化されました。
現在の任命制においても、教育行政の地方自治を建前としているけれども、この展開が示すように、実質的には形骸化されてきたといえます。このような状態のもとで、教育委員公選制の復活を求める声もでています。今日、教育基本法一〇条の理想に立ち戻って、教育の住民自治を確立し、その基盤の上に、地域住民のさまざまな要求を実現するように教育委員会制度に働きかけることを通じて、教育行政の地方自治の再生をはかることが重要な課題です。教育の自主性確保の理念は、それを保障するような教育行政の民主化を要請します。
以上が、教育の自主性確保の意味するものですが、このように、教育基本法一〇条一項は、教育をめぐる国家と国民の関係を明示した画期的条文であり、教育基本法の核心ともいうべきものであるため、このすぐれた文言に深く 学ぶことが必要です。

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