教育内容と指導助言権

現行教育法は指導助言権を、教育行政に独特なかつ主要な権限として認めていますが、これは一言にしていえば非権力的で、専門、技術的な権限であるということができます。
その中心的な特色は、法的にはこれと対照的な指揮監督権が上下の関係で法的拘束力を有するのに対し、法的拘束力を有しないことにあるとされます。そしてこれが教育行政において特別に求められるのは、その対象が教育という高度の自主性、専門、技術性を要する作用のため、指揮監督権によっては真に行政目的を達しえないからであるといわれます。そこに働く原理は、教育詩的にすぐれたものであれば、法的拘束力がある以上に本格的な効果をあげるということで、これが期待されているわけです。
ところでかかる指導助言権が、教育の場で最も意味のある場面は、それが法的強制力ある指揮監督と異なるという点からして、当然ながら教育内容行政や教育内容に関する教師の権利、自由においてです。いうまでもなく、もしも教育活動に法的拘束力をもちこめば、校教育者の学習権を保障すべき自主的な教育の展開やその責任、教師の教育権を果せないことに通じるからです。同時に、指導助言権は教育の自主性を確認し、その任務と限界を教育の外的条件整備におく教育行政権にふさわしい権限ともいえるからです。

スポンサーリンク

戦後初期の日本の教育行政が、国の教育内容基準である学習指導要領を指導助言文書として、教育内容の自主編成権を大幅に学校、教職員に認めたことは、その典型的な例であり、また教育専門的な指導主事による助言指導を指揮監督権から独立する形で注記したのもそのあらわれです。ちなみに、旧教育委員会法は指導主事は、教員に助言と指導を与える。但し、命令及び監督をしてはならないとしていました。これは、指導主事の職務に代表さる指導助言権が、教師の専門的自由や権利を認めることを前提にしていたのであって、むしろこの場合は助言指導権ともいうべきものと考えられていました。
戦後日本において助言指導権をあえて法定して注目されるのは、一つには戦前における視学(官)が、国が決定した教育内容を、教師を通じて学校教育に強制したことに対する否定的意味をもっているからです。しかしより根本的には、この前言指導権は、もともと現代における教育内容、方法の実践的、理 論的発達やその民主的思想の展開に対応して歴史的に形成、注記されるにいたったのであって、これをもっと具体的にいえば、披教育者の成長、発達を促すために、とりわけ教育内容に関する教師の専門的自由や権利を認めたうえに成り立つ、民主的で、専門、技術的な権限として確認されているのです。
教育内容に関する教師の学問的、専門的な自由と権利を大きく認めるILO・ユネスコ「教師の地位に関する勧告」が、この前提条件を踏まえつつ、指導助言権の一つの態様を、象徴的に次のごとく述べているゆえんでもあります。すなわち、それは、教師の専門的な職務の遂行にあたって教師を励まし、かつ、援助するように計画されるものとし、教師の固有な自由、創意および責任を減じないようなものとするということです。
このような意味から、指導助言(助言指導)権を一般的な「行政指導」に解消したり、その一環としてのみとらえるのは一面的かつ不充分というべく、また、これを後教育者の成長、発達を保障する真に有効な権限とするには、何よりもまず行政的権力による強制や法的拘束力とは無縁でなければならないというべきである。そしてむしろ、より積極的にそこに教育的にいって優秀なるものへの尊敬のほか、教育における知識、事実、理性の権威、教育の創造性への寄与、科学性、弾力性、さらに故郷をはじめとする関係者の参加、協力などの原理が働くことによって、より水準が高いかつ有効な権限となるほどのものといえます。指導助言権の歴史とその国際的傾向はこれをハッキリ示しているのです。
しかし、戦後日本の指導助言権は、現実にはその本来の意義を発揮しえてきたとはいえません。学習指導要領に法的拘来往解釈が導入されたり、指導主事の職務に「上司の命を受け」が挿入され、そのライン系列化がはかられるなどがその典型例です。しかし指導助言権が教育法上否定されているわけではないので、教育の自主的な展開が保障されるために、日本ではその回復がなお今日大きな課題です。
ただ、ここで留意を要することは、指導助言権は教育内容行政や教師の教育権においてのみ意義を有するのではなく、広く教育行政権の動ききとしても法記されていることです。たとえばこれは文部省の権限の主要な特色ともされていることはよく知られているごとくであり、また教育事務に関して文部省と各段階の教育委員会(地方公共団体)相互の関係においても、指導助言権を基本の骨組みとしていることにこれが示されています。
なお、教育行政権の基本任務を教育の外的条件整備のほか、この指導助言(助言指導)権を大きな柱としている点は、国民の自主的な教育、文化活動に対する場面においてもみられます。社会教育主事に社会教育を行う者に対する約言指導権を注記しているのがその代表例の一つです。

教育法の意義/ 教育法の沿革/ 戦後教育改革の成立/ 教育法の展開/ 教育法の体系/ 教育法の法源/ 教育法の解釈/ 教育法の解釈の特殊性/ 教育裁判/ 教育基本権裁判/ 教育法の基本原理/ 教育を受ける権利/ 学習権の意義および主体/ 学習権/ 機会均等の原理と能力主義/ 青年の人権/ 男女共学の理念/ 教員の教育の自由と責務/ 研修権/ 個人的権利から集団的権利へ/ 父母・住民の教育権と責務/ 義務教育と父母の地位/ 父母や住民の教育への要求と権利/ 国民の学習権/ 教育の自主性確保/ 教育の内的事項と外的事項/ 教育内容と指導助言権/ 教育の条件整備/ 公費負担と無償教育/ 教育行政の中立性/ 教育における地方自治/ 教育行政の地方分権/ 教育における住民自治/ 住民自治と学校自治/ 平和と民主主義の教育/ 教育の公共性/ 教育の政治的中立性/ 国民共通の教育/ 学校体系の意義/ 就学前教育/ 義務教育/ 高校教育/ 大学教育/ 私立学校/ 入試制度/ 学校の内部管理の意義/ 教員と職員会議/ 校長、教頭および主任の職務/ 学校の内部管理における児童生徒の地位/ PTA/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク