教育の条件整備

現行決のもとにおいては、教育行政は教育の目的を遂行するために必要な諸条件の整備確立、いいかえれば教育の条件整備を目標として行われるべきものである、と定められています。
教育行政が教育の目的を遂行するに必要な条件整備であるというこの規定には、教育行政があくまで教育目的に従属し、教育目的を実現するためのサービス活動であり、手段であり、機関であるという教育行政談が内包されています。これは、端的にいえば教育のための行政という考え方であり、教育行政の権力的、強制的要素ははるか彼方に後退しています。戦前日本の教育行政談とはきわめて対照的な、特色ある定めといわなければなりません。
しかし、教育の条件整備の理解に関しては若干の対立点があります。一つは条件整備の範囲についてであり、もう一つは条件整備の法的性質という問題です。後者は具体的には指導助言か指揮監督かという問題で、既述されています。ここでは前者についてのみ概説します。

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教育の条件整備の範囲に関する見解を大別すると、おおよそ次の三つになります。第一は、教育の条件整備を教育の外的な条件の整備、例えば教育施設の設置管理、教育費の確保などに限定する説です。これは立法者意思そのものでしたが、ほかに戦前日本の教育行政のような権力的、集権的な教育行政のあり方を否定する人びとの見解のかかに多かれ少なかれ見られ、教育学界で長い間主張されてきた説でもあります。一、二の例をあげると次のようです。
教育基本法の起草から成立の過程にたずさわった文部事務官の筆になる教育法令研究会、教育基本法の解説では、条件整備の規定は「教育行政の特殊性からして、それは教育内容に介入すべきものではなく、教育の外にあって、教育を守り育てるための諸条件を整えることにその目標を置くべきだというのである。と述べて、教育条件の範囲から教育内容を除いています。
これに対して、教育内容や教育方法について教育行政が適切な指示を行うこともまた教育の条件整備に合むべきだとする説があります。歴史的には一九五〇年代の終り頃から公然と主張されるようになったもので、主として行政解釈においてそれがみられます。
例えば、教育行政法は、教育の目的を達成するに必要な諸条件とは、学校制度、教職員の人事制度、教育内容、社会教育の各種奨励策及び教育行政制度等、教育全般の諸制度、諸機能を整えることであって、施設整備等の特定の条件のみに限られるべきものではないことはいうまでもないと早くから述べていたが、いわゆる杉本判決を否定するために文部省が七〇年八月七目付で出した通知「教科書訴訟の第一審判決について」では、「教育の目的達成に必要な諸条件については、このような区分にはかかわりなく教育行政の対象となる」と、この考え方を公式に明言し、文部大臣の諮問機関である中央教育審議会も、今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策についての答申のなかでかかる立場を継承し、つねに新たな工夫によって改書された標準的な内容、程度の教育をすべての国民に保障することは、政府の国民に対する重大な責務であるといい、教育内容に教育行政が関与することをむしろ当然だとしています。
しかし、教育学界や教育法学界ではこのような説を批判する説が少なくなく、この説を肯定する判例は多くはありません。
教育条件整備が外的条件にかぎられるべきか内的条件にもおよびうるかという論争のなかで、第三の説が明らかになった。それは内的条件については教育立法、行政による大綱的基準の設定を認めるもので、教育条件を学校制度的条件にかぎる説です。
例えば教基法第一〇条がそれで、そこでは条件整備をモットーとする教育行政にとって第一次的に重要なのは、教育の内容面に関与することではなく、教育の外的条件をよく整えていくことであるとしながらも、教育の内容、方法が教育行政の条件整備の対象にかりえないという説にも疑義を呈し、条件整備的行政は教育を支配するものではありえず、今日の公教育にあっては、教育の自主性を尊重しながらその専門性を高めていくための条件整備行政が、教育の内容面についても示認されうるのではなかろうかと述べています。
立法や行政が関与するのを認められるのは法定の学校制度の一環となる学校教育活動の制度的条件をなす事項、すなわち学校制度的基準に限られ、教科教育の内容については指導助言的基準、つくりのみが認められるものと解すべきであろうといいます。この学校制度的基準はいわゆる大綱的基準といえます。この点では、教育行政は教育内容の権力統制をすべきではないが、教育課程行政においても、文部省はあくまでモの大綱的基準の設定に止まるべきであるという宗像誠也説の系譜に属するものといえます。

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