公費負担と無償教育

国、地方公共団体が自らの財政資金で支払う経費を公費といいますが、公教育は公費によって設立、維持されるものです。公教育が私費でなく公費によって運営される理由は、教育がかつてのように私的な営みでなく、社会的な性質を持つものとしてとらえられているからであり、また国民の教育を受ける権利を実現するのに必要な基本的な教育費は公共の資金で支払われるのが当然だと考えられるからにほかなりません。
憲法二六条二項後段の義務教育の無償規定をはじめ、教育基本法四条二項の国、公立義務教育諸学校における授業料不徴収、学校教育法二九条、四〇条、七四条にもとづく市町村、都道府県の学校設置義務、同二五条、四〇条による市町村の就学援助義務の規定などは、公費による教育を実現するための法的根拠です。
教育費の公費負担の歴史的発展は、段階別にみると世界的に初等教育段階からはじまり、中学教育段階へとおよんでいます。また、公費の支出対象別にみると、公費負担の第一歩は学校建築費に対する公費の導入であり、次いで教員給与関係の補助、負担におよび、さらに授業料の不徴収、教材、教具の無償へとすすんできました。ここ一、二世紀の間に各国で公費負担の範囲は徐々にひろがってきています。

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教育費の公費負担の最もすすんだ形態は、教育を受ける側からすれば教育費の無償です。教育費の無償に関する現行実定法上の代表的な規定は、日本国憲法二六条二項の義務教育の無償の規定です。
周知のように、同条一項は国民の教育を受ける権利と平等について定め、二項は義務教育の無償を定めています。同条のこのような規定の仕方は、義務教育がかつての臣民の三大義務の一つとされていた場合と違って、国民の権利として位置づけられていることを示しており、また義務教育の無償にしても国家的配慮でなく、権利としての義務教育を保障するための無償であることを意味しています。
これに似た規定は教育基本浪岡条にもみられる。同条は国民の教育を受ける読会が均等であり、外在的要因により教育上差別されないという三条の定めを基礎として、一項で義務教育の九年制を定め、二項で国公立の義務教育諸学校においては授業料を徴収しないという原則を明示しています。
教育を受ける例からすると、義務教育の無償を実現する第一歩は授業料の不徴収であり、各国共通にみられる歴史的事実ですが、義務教育の無償は授業料の不徴収だけで十分というわけにはいきません。そのことからすると、教育基本法四条二項の定めは憲法二六条二項の側の表現と解するのではなく、前者は後者の一つの具体的な内容を示したもの、前者は後者の例示事項であると解されなければなりません。
しかし、憲法二六条二項にいう義務教育の無償の範囲をどのように考えるべきかという問題については意見の分かれがあり、現在複数の見解があります。一つは無償の範囲を授業料に限定する説であり、もう一つは義務教育の就学に必要な一切の費用を含むとする説です。
限定的な授業料無償説は行政解釈にみられますが、最高裁の判例も同趣旨です。最高裁の判例では「憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして親の本来有している子女を教育すべき責務を完うせしめんとする趣旨に出たものであるから、義務教育に要する一切の費用は、当然に国がこれを負担しなければならないものとはいえない」。憲法二六条二項後段の「無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である」と。このような判旨は、義務教育の無償の精神をないがしろにするものだとして多くの批判をうけています。現在の学界においては授業料無償説が多数説ですが、その同じ授業料無償説であっても、授業料以外の費用についても無償とするほうが「いっそうその精神に示う」とか、「国は財政負担能力をできるだけ改善することによって、教材費をはじめすべての義務教育費を無償ならしめるよう積極的に努力すべきもの」だというように、無償の範囲を拡充する方向で考えることが本条項の趣旨に合致するという見解が多く見られます。これは無償の範囲を狭く限定する行政解釈や最高裁の解釈が支持されないことを意味します。
これに対して、憲法二六条の生存権的基本権としての性格から考え、また権利としての義務教育制度の本質からして、授業料はもちろん、教科書購入費、教材費、学用品費など、義務教育に必要な一切の費用を無償にすべきであるとする就学必要費無償説があります。学校現場や教育運動の実際的な場面においては、実感に合致する説として支持されますが、憲法解釈論としては子どもの教育を受ける権利が実質的に保障されるためには、授業料以外の費用についても国が負担することは望ましいにしても、憲法二六条二項後段の規定をもって就学必要品いっさいの無償を裁判で請求しうる権利が保障されていると解するには、このような理由づけだけでは不十分だと評されています。また、義務教育に必要な一切の費用にランドセルや家庭の勉強机の購入費は入っているのかいないのか、学校給食費や修学旅行費はどうかなど、論議をつめるべき点も残っています。
しかし、にもかかわらず、無償を授業料不徴収に限定せず、その範囲を拡大しようとする動きはむしろ世界的な趨勢です。

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