教育行政の中立性

教育行政に対し憲法・教基法が命ずるところは、要するに学問、教育の自由、教育の自主性、国民の学習権等を侵害してはならないということであり、したがって教育行政は、教育の内的事項には、非権力的、専門的、技術的な指導助言を除いて不介入でなければならず、外的事項に対する教育行政も条件整備にとどまらなければならない等の原則に服するということでした。とはいえ、例えば非権力的、専門的、技術的な指導助言とそうでない指導助言との区別、あるいは、内的事項と外的事項との区別が、截然と常になしうるものではないことや、さしあたりは妥当な教育行政も当該事例のおかれた個別具体的状況しだいでは教育の自由等を侵害する場合もありうることなどにかんがみれば、この原則だけでは妥当な教育行政の姿をすべて語ったことにはなりません。そこで要請されるのが、教育行政の中立性の原則です。

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一般に行政は、すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではないという意味で、中立性を要請されています。この規定が、アメリカにおけるいわゆるメリットシステムを表象しており、したがって公務員、行政が、その時々の支配的政治勢力に奉仕するのではなくむしろ中立性を保持し、国民の総体にこそ奉仕するべきというのがその法意であることは、つとに知られているところです。他方で教育行政については、特別に教基法一〇条一項が教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものであると命じています。この両者の規定の相違から、後者においては、前者の法意がより直截にかつより厳しく要請されていることが、明らかとなります。つまり、その時々の支配的政治勢力と国民との狭間で、教育行政は、通常の行政よりも一層この支配からはなれ、したがって一層中立性を保持し、一肩国民に近づかねばならないということです。ちなみに、一部の論者には、教基法一〇条一項の文言を形式論理的に反対解釈して不当でなければ支配してもよいと解する立場もありますが、同条の趣旨はむしろ逆であり、国民全体に対し直接に責任を負えないような教育行政はそれだけで不当な支配に該当すると解するのが、法意からする論理的帰結です。
教育行政に対する一府政格な中立性の要請は、教育という行政の特殊性から導かれます。すなわち教育行政が通常の行政同様政治的に中立でなければならないと同時に、学問、教育の内容に立ち入らないという意味で、いわば科学的学問的にも中立でなければならないからです。したがって、教育の外的事項に対する条件整備であれ、内的事項に対する指導助言であれ、それが教育内容、科学的学問的領域にいささかでも影響を与えるものであれば、教育行政の中立性を破ったことになるのです。ましていわんや、特定の政治勢力の政治的イデオロギーにすぎない内容を教育内容に強制するがごとき教育行政は、教育行政の中立性と行政一般の中立性とを、二重に侵していることになるのです。
教育行政に厳格に要請される中立性を保障するためには、教育行政が国民全体に対し直接に責任を負うものである以上、その行政組織も国民によって直接に編成されるのが妥当であろう。この点で、一九四八年に創設され五六年に地教行法制定によって廃止された公選制教育委員会制度は、原理的にみれば、この要請を実現する組織的保障をめざすものでした。かつての教育委員会法がその一条で、教基法一〇条一項と同じ文言でその目的を規定していたのは、このことを明瞭に示しています。逆に、今日の任命制教育委員会制度を定める地教行法に、同旨の文言すらおかれていないのも、示唆的である。いずれにせよ、教基法の命ずる直接責任の教育行政組織のあり方は、今日あらためて検討されてよいことがらのひとつです。

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