教育行政の地方分権

学校教育を受けることが、天皇に対する臣民の義務であり、教育がすべて国の事業として行われていた戦前の明治憲法、教育勅語体制のもとで、教育行政は、中央集権主義を原理とし、統一的、画一的、官僚主義的に行われていました。例えば、明治一二年の教育令一条は「全国ノ教育事務ハ文部郷之ヲ統摂ス敬ニ学校幼稚園書籍館等ハ公立私立ノ則ナク皆文部郷ノ監督内ニアルヘシ」とし、国民学校章四〇条は「国民学校職員ノ執行スル国ノ国民学校二関スル教育事務ハ地方長官之ヲ監督ス」とし、学校等教育に対する国の監督権を明示しています。ほぼ完全な意味での中央集権的教育行政が確立していたといえます。
教育行政の地方分権とは、地方公共団体が国および他のそれから独立して、自己の権限と責任において教育行政を行うこという。それは、戦前の教育、教育行政への批判、反省の上に法制化された原理の一つですが、それは、より根源的には憲法九二〜九五条の地方自治に、特に九二条の地方自治を住民自治とともに構成する団体自治から導き出される教育行政上の原理である。憲法の基本原則の一つとしての地方自治の一環をそれは構成しているのです。
つまり、地方公共団体は固有の事務として公立小中学校、高校、公民館等を設置し、かつ、自主的に運営する権限を有することとなり、市町村に対して国、都道府県は、都道府県に対して国は命令監督を原則としてなしえず、三者の間の教育行政上の上下関係は否定されることとなりました。地方自治法、学校教育法、社会教育法、教育委員会法等戦後教育改革立法、教育基本法制を貫徹している原理の一つが教育行政の地方分権の考え方でした。
旧教育委員会法は、一般行政からの教育行政の独立、住民公選および教育行政の地方分権の三つの原理から構成されていました。教育委員合法一条は、教育基本法一〇条一項を受けて、公正な民意により、地方の実情に即した教育行政を行うために教育委員会を設け、教育本来の目的を達成する。地方の実情に即した教育行政の権限と責任を公選制教育委員会に与えたのである。教育改年期の学校教育法にあった地域に即した教科書検定、教科書採択、教育課程の編成と照応しています。
地方分権主義的教育行政を担う教育委員会の創設は当然のことながら中央集権化した文部省の権限を弱化せしめ、文部省は、その権限の行使に当って法律に別段の定かある場合を除いては、行政上及び運営上の監督を行わないものとするとされました。

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昭和三一年、教育委員会法は廃止され、新たに地方教育行政の組織及び運営に関する法律が制定されましたが、憲法九二条、教育基本法一〇条のもとで旧教委法を構成していた前記三原理は完全に、またはほとんど否認されるに至りました。テーマに則していえば、教育行政の地方分権の原理に、国、県、市町村相互間の連絡提携の緊密化が付加されることとなりました。第一に、文部大臣は都道府県および市町村に対して、都道府県教育委員会は市町村に対して、広範な指導、助言、援助を行うものとすることになりました。第二は、地方公共団体の長または教育委員会の違法等の行政事務に対してその是正または改善のため必要な措置をとるべきことの文部大臣の措置要求権が認められたことです。第三は、都道府県教育長に対する文部大臣の、市町村教育長に対する都道府県教育委員会の承認制度が設けられたことです。さらに、都道府県教育委員会は市町村教育委員会に対して、市町村教育委員会の所管する教育機関の管理運営の基本事項について基準の設定をなしえ調査資料および報告の提出要求負担教職員の人事権を有することとなりました。
このように、国、都道府県、市町村の連携の緊密化を志向した地教行法は、教育行政の地方分権の原理を明確には否認することかく、三者間の上下の関係をつくり出しました。文部官僚もまた「かような指導関係を明記したことは、文部大臣や都道府県の教育委員会に上級機関としての指導的地位を与えたものということができる」と評しています。
昭和三一年の地教行法の制定以後展開される教育政策、例えば、教育委員会による学校管理規則の制定、勤務評定、学カテストの実施、教科書の学校採択の否定と広域採択化等はまさに三者の「連繋の緊密化」のもとで地教行法を根拠法規としてなされたものです。その過程は、憲法の地方自治の一環としての教育行政の地方分権の原理が空洞化される過程でもありました。
法的に根拠がある少数の事項を除き、文部大臣は命令、監督をなしえないとする現行地方教育行政に関する法制のもとで、文部省の非権力的関与が、文部省、都道府県教委、市町村教委のタテの系列化を形成しえた最大の根拠は、地方公共団体、教育委員会の事業が国、文部省の財政上の援前によって、実質的な裏付けを与えられるという教育財政法の仕組みとその運用に求められます。

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