教育の政治的中立性

近代公教育においては、思想、信教、良心の自由などの基本的人権の尊重の精神から、宗教的宗派性および政治的党派性からの中立性が要請されます。これは一般に教育の中立性とよび、そのうち政治的党派性からの中立性を教育の政治的中立性といいます。この教育の政治的中立性関係の法律は、教育基本法八条を中心として、一〇条、憲法二三条、二六条、「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」、国家公務員法一〇二条、地方公務員法三六条、教育公務員特例法二一条の三、人事院規則一四一七、公職選挙法一三七条などがあります。教育基本法一〇条が「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行わるべきものである」と規定していますが、それは教育の自主性、不当な支配からの中立性を原則的に示したものです。
教育基本法八条一項は「良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない」と定め、二項は「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と定めている。このように教育の政治的中立性とは政治と切断された教育ではなく、特定政治の支持、反対の政治的党派性からの中立を意味しているのであって、二項の拡張解釈によって、公民として必要な政治的教養と教育が軽視されたり、歪められたりすることは許されません。なぜなら民主主義政治の実現には、国民の政治的教養と政治道徳の向上が不可欠だからです。

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良識ある公民とは、十分な知識と健全な批判力を備えた社会団体の一員として、積極的に社会を形成していく国民、政治を積極的に形成していく国民といえます。また、そのために必要な政治的教養とは、民主政治、政党、憲法、地方自治等、現代民主政治上の各種の制度についての知識、現実の政治の理解力、およびこれに対する公正な批判力、民主国家の公民として必要な政治道徳および政治的信念などであり、学校教育も社会教育もこれを養うことに努めなければならないし、教育行政はそのための条件整備をしなければなりません。
教育基本法八条二項は、政治的中立性を阻害する教育を禁止していますが、「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」三条は、そのような教育の教唆せん動を禁止し処罰することによって間接的に教育の中立性を確保するものだといわれます。ここで教唆せん動をうけるものは「義務教育諸学校に勤務す る教育職員」にかぎられていますが、教唆せん勤者、すなわち刑罰の対象となるものは、「何人も」と表現されているように、国民一般も教員個人もすべてが含まれます。例えば、教員団体の研究会で他の教員に対して行った言動でも本法の適用を受けることになります。これら、三条は制定当時から難解不明瞭で多様な解釈が生まれる可能性を残していました。しかし、この法律は教員の行う教育活動を直接規制するものではないので、これによって先の政治教育が萎縮させられるようなことがあってはなりません。
しかし、この法律自体が一九五四年、きわめて政治的背景をもって制定されたことを想起しておかなければならなりません。本法制定の動機は一九五三年の山口県教職員組合編集による「小学生日記」「中学生日記」にあるといわれています。すなわち、内容が偏向しており、政治的中立性を侵しているというのことでした。
この年一〇月には、当時自由党政調会長であった池田勇人が政府特使としてワシントンを訪れ、ロバートソン米国務次官補と日本の防衛力増強について会談しました。そして日本の再軍備の制約の一つに、平和教育のあることをあげたうえで「日本政府は、教育および弘報によって日本に愛国心と自衛のための自発的精神が成長するような空気を助長することに第一の責任をもつものである」という覚書も交換されていました。このような背景のなかでこの法案は軍国主義復活につながり、教育の自由、国民の自由侵害のおそれがあるとして、日本教職員組合ばかりでなく、日本教育学会、小中校長会なども反対しましたが、「教育公務員特例法の一部を改正する法律」とともに「教育二法」として強行採決されましたが、その影響は政治教育の消極化が生まれるなど小さくありませんでした。
教育の政治的中立性には、以上のように教育内容、教育活動の政治的中立性の問題と教員の政治的中立性の問題がありますが、両者とも内容は明確ではありません。宗教的中立性の場合は政教分離の建前から、国は無立場となりますが、政治的中立の場合は、国自体が特定の政治的価値観の上に立っており、教育二法にみられるようにその主張する政治的中立性が権力による不当な支配になる可能性は大きい。明治以降戦前の教育には一貫して国家主義的色彩が強く、富国強兵策のもとに軍国主義教育が推進されて、そのなかで教育者は政治問題に関する講演、討論を合む政治活動が一切厳禁されましたが、その結果は教育者が政治的無能力者とされながら、国家の戦争を合む現実政策に無条件的に服従させられることを意味した。またそのことによって、軍部官僚による独裁政治を教育界においても支えることともなり、児童、生徒への政治教育も全く一方的なイデオロギーヘの服従を強いるものであり、政治的批判力や政治道徳の向上を養うことはほとんどできなくなりました。
そのような反省のもとに、教育基本法八条はつくられているのであり、その趣旨が憲法二三条の学問の自由、二六条の教育を受ける国民の権利の条項とともに正しくとらえられる必要があります。すなわち、教育は社会の未来の成員が社会発展をにないうる能力、社会体制の選択を含め社会について自由な決定をなしうる能力を発達させるものでなければならなりません。そのためには何よりも真理、真実にもとづく教育が要請されます。教育の政治的中立性はこのような真理教育を保障するものでなければなりません。そこで、教育が政策的にも財政的にも公権力に依存する程度が高まれば、それだけ教育に対する党派的支配から中立を保つような教育行政組織のあり方が追究されなければななりません。

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