国民共通の教育

もともと普通教育という言葉は、教基法四条一項の「国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う」という規定の中心に付設し、それは、小、中学校の目的規定である「小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とする」と「中学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする」に貫かれていますが、そこでの「普通教育」とは、憲法二六条二項の「すべて国民はその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う」のそれと同義と解されます。
しかしながら、この言葉は、「高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする」という高校教育の目的規定にみるように、義務教育以上においても使われるとともに、「専門教育」との対置による併記がみられ、その一義性について多くの論議のあるところです。
日本の教育の歴史で、専門教育は高等教育の別称またはその重荷な内容をなすものと考えられてきたため、普通教育がこれに対して低次の教育と考えられたり、普通教育と専門教育との内的関連を見失った考え方もありましたが、これらは改められなければなりません。憲法、教基法の理念に照らせば、普通教育はすべての国民にとって共通に必要な基礎教育の意味にとらえられるべきであり、いいかえれば社会的存在としての人間が、現代の国民生活を営むうえで不可欠な基礎能力を育てる教育と解されます。

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戦前の義務教育における「共通性」の内容とは、天皇制支配下の国家の教育要求にこたえ、その目標とする臣民像を中心に、支配層の軍事的、経済的要請をおりこんだ画一性と共通性を意味しました。国家が国民に義務として強制した国家主義教育の「共通性」の本質は、教育の自由と権利を否定し、思想的にこれを抑圧、統制しようとしたイデオロギー的教化に不可分に結びついていたといえます。これに対して、今日の国民共通の教育の内容は、教育が国民主権に立つ国民の共同の公的事業であるという認識に立ち、国民の教育要求の歴史的発見に即して、その教育内容の量と質の両面から共通性が把握されなければなりません。それは、教育法の前文、一条に示された教育目的に合まれる教育的価値を共通の基盤とするとともに、国民の教育要求の高まりによって内容と水準をしだいに高め、これを保障する制度的改革を必然とするものです。例えば、六〇年代から七〇年代への国民の教育要求の増大と高校教育の「準義務化」の趨勢に伴って、高校における共通教育の内容が、教育における国民的教養の共通の基礎の問題として、同時期の青年期教育の内容と合せてあらためて問われているのもこのためです。
したがって、国民共通の教育とは、国民教育の制度と内容の発展の過程で、家庭、学校、社会の教育を視野におさめ、主権者としての国民が育成される過程での基本的共通性を、とりわけ公教育の制度的保障の視点からとらえなおした概念といえるでしょう。それは一人ひとりの人格形成を「国民」形成に焦点化して人類、国際社会に開いていく憲法、教基本の基本理念に通ずるものといえます。
このような意味で国民の共通教育が保障されることと、個人の尊賊を重んじ個性豊かな人格の育成を目ざす教育の個性化の原理が質かれることとは、決して矛盾するものではない、なぜなら、学習の自由と権利は、生存権的基本権の文化的側面の保障によってこそはじめて実質的なものとなりうるのであり、そのためには、人類と民族の歴史的文化遺産を継承、発展させる共通の基礎が与えられなくてはならないからです。また教育の実際では、人格の可能性の個性的な開花は、むしろ共通教育における発達の指導過程において芽ばえてくるものだからです。
さらにまた、国民の共通教育は将来の職業的生活の直接的ないし間接的準備として、将来の社会成員としての労働能力の基礎を与えるものでなくてはなりません。これは一般的教養と職業的教養、一般教育と専門教育との内的関連の問題として追究されている問題ですが、両者は、価値的にあるいは発達段階的に上下の関係にあるものではありません。現代的労働の質的変化と高度化、また社会生活への主体的参加の観点から、それぞれの共通の基礎が選び抜かれると同時に、理論的には、社会生活とそのなかで働く労働能力と学校で育てられる文化的能力と自治的能力との関連が意識的に問われねばなりません。もう一つ大事な観点は、国民共通の教育が行われる過程で、個性的な学力と教養の中身が築かれ、自らの進路と職業選択を主体的になしうる能力の基礎が築かれるよう配慮することです。基本的にはこのような内容をもつ国民共通の教育の実現によって憲法二六条に示された「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」教育を保障することになると思われます。

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