大学教育

大学は歴史的に、(1)創造的な科学研究の遂行とその成果の保持、および科学研究の担い手である研究者の再生産の機能、(2)医師、法曹、技術者、教師その他の新旧の諸プロフェツション(専門職に従事する有資格者集団)の教育、技能訓練、(3)公教育体系のうち学校教育の最上段階に位置し、研究者、専門職者の教育を含めて、さらに広汎な人々に対して市民としての教養を完成させるとともに、官庁、企業、家庭等に対して高度な、あるいは実際的な専門教育を受けた人材を供給する機能、という三つの機能を果たしてきました。現代社会でも基本的にあらゆる国の大学は総体としてこれらの機能を果たしています。しかし特に第二次大戦後、高等教育進学志望者の増加、大学以外の諸機関、企業体等における研究機能の増大という二つの条件のもとで、しだいに(2)および(3)の機能を強めつつあります。特に、大学および高等教育が少数のエリートを対象とする教育から多数の大衆を対象とする教育へ、さらに万人の権利としての高等教育へ、という段階へと移行しつつある状況は、多くの国でみられるところです。日本は資本主義国のうちこの傾向を最も顕著にあらわしている国です。

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このような大学の機能および状況の変化は、大学という機関や制度の目的や性格に関して、新しい展望をもつことを要請しています。すなわち、研究機関性や専門職教育機関性に重点をおいた従来のとらえ方に対して、高等教育機関性をより重視した概念枠組においてこれをとらえることが求められているのです。現在の日本の大学は、第二次大戦後の教育改革の所産です。このいわゆる新制大学は、発足の当初においてすでに高等教育機関性をつよく意識して発足したものでした。すなわち、それは、六・三・三の単線型的学校体系の最上郡に、高等学校に続く教育機関として位置づけられ、小・中・高校という学校系統の成立を前提として構想されたし、また、教育課程の面では一般教育課程を必置の課程として導入し、単位制をも導入しました。従前「大学令」という単行勅令において規定されていた大学が、学校教育法中に規定されるようになったことも、この趣旨を象徴するものということができよう。このような趣旨のもとにエリート主義的な旧制大学の制度構造を転換していたがために、日本の大学は、イギリス、ドイツ等のように同種の改革を見送っていた国々と異なって、六〇年代の高等教育人口の大膨張を支えることができたのです。
このような大学の変化は、大学を教育法学の対象領域として考える際の、新しい特徴と課題とを提起しています。特徴とは、大学および大学に属する集団の権利義務関係に関する係争問題中、特に学生の利益に関する係争問題の比重が増大していることです。課題とは、大学が伝統的に獲得してきた自治、自由という価値を、大学のこのような現代的状況とのかかわりでいかに承け継ぎつつ転生、発展させるか、という問題です。この両者とも、その根本にあるのは、長い歴史と沿革をもつ大学の地位、性格、理念を、大学へ高等教育をうける権利を求めて進学してくる多数の国民の要求との緊張関係においてとらえつつ、いかに新しい大学像を創造してゆくかという課題であり、この意味で、大学を教育法学的考察の対象としうる、また、対象とすべき時代が到来していることを物語っています。
大学における活動のうち、研究と教育の二つをとり上げると、この二つがアプリオリに両立する条件は急速に失われつつあります。よき研究者はよき大学教師であり、よき大学教師は当然によき研究者であるはずである、という従来の通念のうち、とくに前者は、研究と教育そのものの意味内容を含めて、再検討されるべき時期にきています。研究成果の陳述がそのまま大学教育の内容をなす、という前提のもとに構築されてきた理念は、今日の高等教育状況のもとではそのままでは通用しません。さらに憲法二三条の学問の自由規定が特に大学における教員の研究、教授の自由に関する保証であり、また人事権、施設管理権等大学の自治的権限の保障である、という通念も、それが大学以外の教育機関の自律性と教師の自由とを制限する論拠としても援用されたという側面とともに、厳しく批判されるべきである。いわゆる家永教科書訴訟に対する東京高裁判決や、学テ裁判判決等のなかでも、すでにこの通説的解訳に対する実質的な修正ともみられる見解が提示されています。また、二三条規定を二六条の「教育をうける権利」規定との関連のもとに再構成しようという教育法学的主張もさまざまの形で試みられつつあります。これらは、「学問の自由」の主体を広く国民一般へと拡大して捉え直すという志向に支えられていると同時に、大学および大学教育をめぐる現代的状況に促進された動きであり、さらに現代および将来に向かっての大学像の模索が始まっていることを示すものであるといえます。
学生の地位、権利に関する諸判例が数多く出されるようになったのは、一九六〇年代来以降のことです。とりわけ国立大学退学処分の取消を求める訴えに対する判決や東北大学大学自治事件に対する判決等には、大学の自治と学生の地位、権利等への新しい判示がみられます。また、学生の受講権、単位取得権、進級卒業権等をめぐる事件も、今後教育裁判のテーマとなってくるであろうとみられるなど、教育法の領域としての大学教育は、その重要性を増してゆくものと考えられます。

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