登下園中のつきそい保母の責任

保母さんにつき添われて集団で帰宅中に、保母さんたちは踏切を渡り終わりましたが、私の子供はとり残されました。子供は、電車の通過するのを待って、早く追いつくためしや断機のバーのわきから飛び出したところ、対向電車にはねられ死亡しました。私の子供が悪いことになるのでしょうか。
幼稚園、保育園の園児の登下園に付き添う保母は、園児が安全に登下園できるよう十分な注意を払う義務があります。登下園の付き添いについて、園児の父母から幼稚園、保育園またはその保母が依頼をうけていた場合はむろんのこと、特に依頼にもとづかない場合でも、園児のような判断能力のない者の登下園については状況によっては園の側にも、保育契約にもとづく付き添いの義務が生じることがあると思われますし、かりにそのような義務がないとしても、現実に付き添いを開始した以上は事務管理が成立すると考えられますので、この注意義務に変わりはありません。

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付き添いの保母は特に踏切や道路の横断の場合には、危険が予想できるのですから、厳しく注意義務を負われます。園児の行列が踏切を横断する場合、列車通過のため行列が中断され一部の園児が後方にとり残されたようなときは、とり残された園児が早く追いつこうとして飛び出すといったことは、幼児にはとくにありがちなことです。したがって保母としては、列が中断しないように一度に踏切を通過できるよう気をつけるか、やむをえず列が中断するときは、後方にとり残された園児につきそうなりの注意をすべきです。もっとも、その場合は、先に渡り終えた園児のグループに危険が生じないわけでもありませんから、結局、一人でつきそう場合には園児の数が余り多くならないよう注意を払う必要もあるわけです。
本問の場合、つきそいの保母の人数、園児の人数、またとり残された園児の側の付き添いの有無などによっても結論に違いがありますが、前に指摘したような点で、園なり保母に落度があれば、あながち、飛び出した園児のみが悪かったとはいえないでしょう。そして、この場合、保母自身に責任が生じることはもちろん、保母の雇主である幼稚園、保育園にも責任が生じるものと思われます。父母の依頼を園がうけていたときは、債務不履行あるいは使用者責任が、また、保母自身が依頼をうけていた場合には、使用者責任が、父母の依頼にもとづかない場合でも、債務不履行あるいは使用者責任が生じるでしょう。もっとも、保母がまったく個人の好意で付き添いをしていたような場合の園の責任についてはやや問題がありそうですが、本問の場合を含めて、一般的には、よほど特殊な事情がない限り、登下園時の付き添いは、保母としての職務の範囲内に合まれるとみて、園に使用者責任を肯定するのが妥当でしょう。
ところで本問のような踏切事故について、鉄道企業の責任はどうでしょうか。高速度交通機関としての鉄道企業は、専用軌道内を走行する限りは、踏切で徐行をしなくてもその運行について過失があるとはいえませんし、また、そのことを理由に損害賠償を請求することはかなり難しいでしょう。しかし、踏切の保安施設の欠陥については別です。本問の場合、踏切にはしゃ断機がつけられていたのですが、もし、しゃ断機が道路全体をしゃ断できるような構造でなく、道の片方だけをしゃ断するようなものであったり、しゃ断機のバーの一部が欠けていたような場合は、しゃ断機の間から子供などがとび出す危険もあるわけです。踏切の保安施設は、土地の工作物である軌道施設と一体をなすとされ、もし踏切の見通し、電車の通過量、とりわけ踏切付近での対向電車通過の可能性と頻度、踏切の通行量と通行者の種類、通学踏にあたるなどから危険性のあるときは、より十分な踏切の保安施設をもうけない限り、土地の工作物の瑕疵(欠陥)を理由とする不法行為責任の成立する場合があります。したがって、本問でも、道路全体をしゃ断するしゃ断機をつけなかったとか、場合によっては警手をおかなかったことを理由に、鉄道企業側の責任が成立するかもしれません。また、もし踏切に警手がいた場合でも、警手が園児のとび出しを制止しえたような場合には、警手の過失を理由に、警手個人または鉄道企業の責任を問うことができましょう。
園児の登下園に保母のほかに、当番の保護者がつきそう場合があります。本問で、もし、当番の保護者がつきそっていたなら、その当番も保母と協力して園児の安全を確保すべき義務を負わされるでしょう。また、保母でなく、当番の保護者だけがつきそっていた場合には、当番に注意義務が負わされます。もっとも、保母に比べれば、幼児の心理などについて専門知識が乏しく、また幼児の集団を取扱う技術をもたないと思われる当番の保護者に、保母に対すると同程度の注意を要求することは無理でしょうから、注意義務は状況によっては軽減されるでしょう。さらに、当番による付き添いが幼稚園、保育園の要請によって行なわれていた場合には、当番の不注意による事故については、幼稚園、保育園側にも、使用者に準じる者としての責任を負わせることができるようにも思われます。しかし、この付き添いが、幼稚園、保育園とは無関係に保護者の話しあいによる自発的なものであるときは、当番にあたった人のみが責任を負わなくてはならず、時には大変気の毒な結果になってしまうことも否定できません。ですから、当番による付き添いを決めるときは、十分安全の確保できる人数の範囲で付き添いをすること、通園路としてできるだけ危険のない経路を選ぶことなどに注意すべきでしょうし、このような点に対する配慮なしに当番による付き添いを決めたときは、当番にあたった人だけを責めることはできないのではないでしょうか。
以上のように、本問では、保母、幼稚園、保育園、鉄道企業などの責任を考えることもできますが、しや断機のバーのわきから被害者がとび出したことはどう判断されるでしょう。被害者に過失があれば、過失相殺を行なえるというのが原則です。そして過失相殺を行なうには被害者が幼児などで責任能力がなくても、「事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り」、危険を認識できる程度の能力のある者であればその不注意を斟酌してもよいとされ、最近では五歳程度の幼稚園児についても過失相殺を認める下級審判決が数多く出されています。なお、被害者自身について過失相殺を認められない場合には、監護義務者の過失が過失相殺の判断の対象とされます。もっとも、本問のように監護義務者に代わって保母が子供の監護にあたっているときにも親の過失を斟酌できるかどうかは問題です。また、本問のような事故で、保母の不注意の程度が大きいときは、被害者の能力との関係で、被害者の不注意も過失相殺の対象とされない場合もありえます。

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