会社内にある無償の臨時保育所でのけが

私は、パートタイマーとしてある工場で働いていますが、勤務時間中、会社内にある保育所に幼児をあずけています。ある日、そこで幼児がすべり台から落ちてけがをしました。会社に対して損害賠償を請求できるでしょうか。
保育所に幼児をあずける契約については、民法に規定がないため、その法律上の性質はなにかが問題となりますが、物をあずける場合のように、あずかった人がその物をただ保管しておけばよいというのとは異なり、親に代わって幼児の一切の面倒をみるという包括的な仕事をその内容とするものであるため、一種の準委任契約とみるべきだと思われます。判例は里子契約のように長期にわたって幼児を他人にあずける場合について、これを準委任と解していますが、里子契約と本件の委託契約とは長期と短期の違いこそあれ、その本質には変わりはありませんので、判例の立場に立ってもおそらく準委任とみるものと思われます。

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このように幼児の委託契約を準委任と解しますと、民法六五六条により六四四条の規定が準用されて、受任者たる会社は、「善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ委任事務ヲ処理スル義務」(善管注意義務)を負うことになります。「善良ナル管理者ノ注意」とは、行為者の属する職業や社会的地位に応じて通常期待されている程度の一般的、抽象的な注意をいい、本件の場合に即していえば、保育所を設置する会社が、一般に社会が保育所を経営している者に対して要求していると考えられる程度の注意をはらって、幼児の世話をしなければならない、ということを意味しています。
このような注意義務は、契約が有償であるか無償であるかによって区別されていません。これは、たとえば、無償寄託(無償で物をあずける契約)の場合に注意義務が自己の財産におけると同一の注意に軽減されているのに比較するとき、無償の受任者に重い義務が課せられていることになりますが、それは委任ないし準委任が当事者間の信頼関係を基礎としているからだといわれています。しかし、実際には、委託が無償あるいはきわめて低い報酬のときに受任者に善管注意義務を課することが結果的に酷な場合も生じますので、当事者間の特約で注意義務を軽減することができるのみならず、特約がなくても当事者間で注意義務の軽減あるいは損害賠償義務の減給について黙示の意思説示があったものと解すべきだとする見解が有力です。もっとも本件の場合、形式的には無償とはいえ、ほんとうに無償といえるかどうかは疑問です。なぜなら、会社が無償で幼児をあずかるのは、親がその会社で働く見返りとして行なわれるものであって、いわば親の労務の提供に対して会社側が報酬の一部をこのような形で支払っているとみることもできるからです。雇傭契約と結びついて幼児の委託契約が行なわれている場合は、むしろこのように考えるのが自然といえましょう。
保育所内で幼児がけがをしたような場合、保育所の設置者は幼児に事故がないよう面倒をみる義務があるとするのが社会通念でしょうから、具体的事情によって一概にはいえませんが、一般には善管注意義務違反となり、会社は契約上の責任、つまり損害賠償責任を負わなければならないものと思われます。また、幼児のけがが保母の過失にもとづく場合には保母の使用者である会社に対して不法行為責任を追及することも許されていますから、契約不履行を理由として損害賠償を請求することも、不法行為を理由として損害賠償を請求することもできることになります。

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