通学中の事故防止と学校の責任

私の子供が通っている小学校近くの交差点では、毎朝、縁のおばさんが学童を誘導していました。ところが、ある日、緑のおばさんは直ぐ近くまで自動車がきているのに気付かず、旗を出して学童に道路を渡るよう指示したため、自動車が学童の列につっこみ、死傷者を出しました。私の子供も二ヵ月の重傷を負いました。緑のおばさんに補償要求をすることができるのでしょうか。
通学中の学童の交通事故防止については、必ずしも、学校側に民事上の責任があるとはいえません。通常は、学童やその保護者の責任といえましょう。しかし、判断能力の十分でない低学年学童をかかえた小学校などで、しかも、学校が特に交通事故発生の危険性の大きい場所にあるような場合には、学校長としても、関係機関と連絡をとって交通安全施設の整備あるいは警察官等による交通整理を要請し、それらが早急に実現しない場合などには、状況によっては、学校職員などによって学童を誘導するなど、合理的な範囲内で、具体的に学童を交通事故から守るべき管理者としての責任を負うといえます。

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いわゆる緑のおばさんは、非常勤の学校職員として、登下校時に学童の誘導にあたっているのですが、その地位、権限が特に法律上規定されているわけではありません。そして、その指示に自動車運転者が従うべき法律上の義務はありません。緑のおばさんは、道路交通法一四条四項にいう「その他その場所に居合わせた者」にあたるとされますが、同条による措置にはなんらの強制力が認められないのです。それだけに、緑のおばさんは、自動車の接近に十分注意し、安全を確認して学童を誘導する必要があるわけです。
まず、緑のおばさんが注意を怠ったため生じた本問のような事故であっても、特に緑のおばさんが赤信号を無視して学童を誘導したといった特殊な場合を除けば、自動車運転者側の賠償責任が軽減される可能性は乏しいでしょう。緑のおばさんが誘導にあたっていたからといって、自動車運転者の交差点での事故防止のための注意義務がなくなるわけではありませんし、緑のおばさんの不注意を被害者側の過失として過失相殺ができるわけでもないからです。次に、自動車が予想外の速度で接近したとか、運転者が脇見運転をしていたといった特別な事情があったとしても、もともと学童には欠ける判断能力を補うため学童を誘導することを職務とする縁のおばさんには、その程度の事態は予測することが要求されているといえますので、無過失とされることは難しいでしょうし、おばさんの不注意と事故の間に相当因果関係がないとはいえないでしょう。したがって、おばさん個人も、被害学童やその保護者との関係では、自動車運転者あるいはその運行供用者と共同不法行為者ということになり、損害賠償義務を負わなければなりません。
ところで、公権力の行使にあたる公務員が、その職務を行なうについて他人に不法行為を行なった場合には、国や地方公共団体が賠償責任を負います。そして、最近では、公権力の行使の概念は広く解釈されていて、教育活動など非権力的作用も含まれるとされます。また、公務員のうちには、官庁の雇傭員なども含まれ、さらに常動でなくてもかまわないと解釈されています。したがって、さきにのべたような学校の学童に対する保護義務を果たすために学童の誘導にあたっている緑のおばさんの不法行為による被害について、国家賠償法にもとづいて雇主である市や区などが責任を負うと判断できる余地は大きいでしょう。かりに、国家賠償法による責任は成立しないとしても、市や区などは緑のおばさんの雇主として使用者責任を負わされます。そして、民法は使用者が被用者の選任監督に際し注意を尽したことを証明すれば免責を認めますが、現実には、この免責を裁判所が認めることはほとんどありませんので、市や区の責任が民法の使用者責任によって認められるにせよ、国家賠償法によって認められるにせよ、実質的にはほとんど差異はありません。
かりに、父兄の有志や篤志家が学童の誘導をしていて事故が生じた場合の取扱いは問題です。純然たる奉仕活動をしているこれらの人々に責任を負わせることは酷ですし、一方、学校との関係で直接の被用関係がありませんので、学校(市や区)に賠償責任を負わせることも難しいからです。この場合、学校側がこれらの人々に本来、学校側で行なうべき学童の誘導を依頼していた事実があれば学校の被用者に準じて学校の責任を認める余地はありそうにも思われますが、そうでない掛合には、被害者側から実際に奉仕活動をした人々の責任を追及することの当否はともかく、理論的には、それらの人々の責任を否定することは難しいように思われます。

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