教師個人の責任

私が担当する市立中学校の製図授業中、定規を忘れた生徒Aは生徒Bに定規を貸してくれと頼みました。Bは、Aに貸すため、自分のもっていた定規を半分に折ったところ、定規の破片が飛んで隣席の生徒Cの右眼につきささり、その結果Cは失明してしまいました。私は個別指導中で、そのときはAB間のやりとりには気がつきませんでした。私には責任があるのでしょうか。
通常このような学校事故の場合、学校の設置者であり教員の使用者である市の賠償責任が問題になることが多いと思われますが、法律論からしますと、教員の責任も同様に問題になりますのでそれについてまず述べます。
まず、校長や教員は教育活動において生徒の安全を保持する義務を負っていることが学校教育法の理念からして認められているわけです。校長は、学校の教育活動全般につきこの義務を負っていますし、教員は担当の授業活動につきこの義務を負っているわけです。この生徒を保護監督すべき義務に反したことによって、生徒に事故が起こった場合の民事責任についてみますと、不法行為として賠償責任が校長などに生ずるわけです。

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不法行為責任が成立するためには、行為者に過失があることが必要です。教員の場合の過失とは、生徒の安全保持義務に反し事故を招いた点にあります。体育活動、理科実験や技術教育などのように危険を伴う傾向のある活動においては、予防すべき点は比較的明らかであり過失の認定も困難ではないでしょうが、本件のような通常の授業中の事故は、偶発的で予測できないものもあり過失の判断が分かれることが多いでしょう。ここでは、このケースと類似の事件において示された裁判所の過失についての見解に従って述べますと、本事例のように、定規を二つに折って貸すというようなことを教師は今までに目撃したことはなかった。したがって、セルロイド製定規を二つに折って貸すような危険なことをしないように生徒にあらかじめ注意するというようなことは教師にとって不可能であった。個別指導をしながら、なお教室全体に目を教さないようにすべきであると教師に要求することも難しいという理由によっ て教師の過失を否定しました。すなわち、このような事故は予見することも不可能であったし、教師により厳重な監督を期待することもできないとしたわけです。教師としての通常の注意力で事故発生を回避できない場合は、過失責任を問われることはないわけです。
これまでは一般の不法行為責任の問題として教員の責任について述べてきましたが、このほかに責任無能力者の監督義務を負っているものとして、教員の責任が問われることもあります。本件のように中学生が加害者であるときは、場合によればその中学生は責任無能力者とされることもあります。そうしますと責任無能力者には賠償責任がありませんので、親権者である親または親に代理してその者を監督すべき義務のある教師が賠償責任を負うことになります。そして代理監督者がこの責任を免れるためには、監督義務を怠らなかったことを立証しなければなりません。このケースでは、前述の教師個人の過失の有無の判定の際考慮された事情からして、教師は監督義務を怠らなかったとされるでしょう。
教師が職務活動にあたって事故を招いたときは、使用者が責任を負います。公立学校での教師の事故については、民法の使用者責任と同じ趣旨の規定である国家賠償法一条が、特別法として優先的に適用される説が有力です。ですから市立学校での教師の招いた事故については市が賠償責任を負うことになります。ところで、市がこの賠償責任を負うためには、公務員に過失がなければなりません。前述の事件では、実は市のこの国家賠償法の責任が問われ、その際、教師の過失が問題になったものです。教師の過失が否定された結果、市に賠償責任はないとされたのです。ここで、もし教師に過失があった場合、市および教員の責任はどうなるかといいますと、市は、民法の使用者責任と異なって被用者の選任、監督に相当の注意をしても免責されず責任を負うわけです。また市の責任は公務員に代わって負う責任とされていますので、教師個人として賠償責任を負うことはありません。
すなわち判例によれば被害者は、国または地方公共団体から賠償をうることができれば損害のてん補として十分であるので、公共団体の賠償責任が成立する場合は教師個人に対する請求が否定されます。ただし教師に故意または重過失があったときは、公共団体により求償権を行使されることがありますし、また教師個人の賠償責任が肯定されます。
以上のようにいずれにしましても、このケースの場合においては、教師個人が賠償責任を負うことはないことになります。

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