必須クラブ活動中の事故
私は市立中学校の柔道クラブの責任者になっている教師です。ある目、柔道クラブのメンバーであった生徒の一人が、練習中に相手の生徒の背負投げを受け、うちどころが悪く、下半身マヒの後遺症をこうむりました。あいにくその時私は出張中で不在だったのですが、電話で知らせを聞いて急いで帰りました。私にも責任があるのでしようか。
今日、学校で行なわれているクラブ活動には、課程内のクラブ活動(必須クラブ活動)と課外のクラブ活動があります。必須クラブ活動は、正課授業に等しいとみられますので、そこでの事故ならば、正課授業中の事故と同視して考えてよいと思います。そこで、ここでは課外クラブ活動中の事故について考えてみることにします。
課外のクラブ活動は、放課後に行なわれるのが普通です。このため、生徒の教育活動およびこれと密接不離の関係にある特定の生活関係についての保護監督義務のうちに入らないのではないかとの疑問が生じます。しかし、放課後の柔道クラブ活動のようなものは、正課授業ではありませんが、学校の行事として承認された学校の特別教育活動の一環としての正規の教育活動とみてよいと思いますので、活動中の生徒に対しては保護監督すべき義務が一般にあるといえます。そこで、教師が、この義務を怠りますと過失があったとして賠償責任が生じます。
教師が、保護監督義務を負うのは四六時中というわけではありません。勤務時間中に限定されることは当然です。そして、教職特別措置法七条の解釈運用上は、「学校が計画し実施するクラブ活動に関する業務」は超過勤務を命じうる場合から排除されていますから、放課後のクラブ活動は勤務時間外ということになり、それが教育活動であっても職務上の指導監督義務がないことになりかねません。そうすると放課後のクラブ活動中の事故については、教員には責任が生じないことになります。しかし、判例にはクラブ活動が正規の教育活動である以上、たとえそれが教員の勤務時間を超えて行なわれるのが通常であるとしても、指導担当教員は、職務上の義務として、柔道に内在する危険性を考慮して、生徒の身体の安全のための万全を期すべき注意義務があるとしています。このため、クラブ活動の企画、立案に際しては、事故防止の観点からの注意を払わなければなりませんし、柔道練習などクラブ活動の実行の際も、十分注意しなければならないことになります。例えば、みずから指導監督にあたるとか、出張等のため不在となるときは他の者にこれを依頼するとかして安全確保のための適切な措置をとっておかなければ、義務を怠ったとして賠償責任が生ずることになります。そして、これらの措置のとれないときは、練習を止めさせるのがよく、生徒だけの自主練習を認めればと責任が生じます。
学校でクラブの責任者となるときでも、スポーツのような場合ですとその実技指導などまったく経験がなく、またそのスポーツ自体をあまりよく知らないで、名目上だけの責任者の場合が多いでしょう。しかし、実質的な指導を監督やコーチに任せているときでも、任せきりにしないで安全確保のために、それらの者に適切な指導約言をしない限り、やはり責任からは免れられません。
放課後のクラブ活動中の事故に際して、このような責任が生ずるとするのは、教員としてはいささか心外かも知れません。
そこで必須クラブ制の出現の結果として、課外クラブ活動は、社会教育の分野にまかせて市などが直接に専門担当員を配置させるという方向にいきますと、教員としての責任は生じないことになるでしょう。
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