示談解決の約束の効力

私の娘は私立中学校一年生ですが、春の遠足に参加したところ、昼食時の自由時間中、一人で近くの川岸に行き、足をすべらせて川の中に転落し溺死しました。事故直後学校側から弔慰金二〇万円をもらい、うちの娘が悪かったことですからといって円満に解決することを約束しましたが、一年たった今、よく考えるともっと補償の請求をしておけばよかったと思い残念です。これからでも何らかの手をうてるでしょうか。
本問では学校から弔慰金として二〇万円もらうことにより円満解決することを約束したとあります。これは一般に示談といわれるもので、民法では和解といっています。和解とか示談とかいわれるものは、法律関係に争いがある場合に、双方が譲り合って争いをやめる契約です。和解は、このように、争いやめることを主たる目的としていますので、一旦和解契約が成立したときは、たとえ後になって真実が違っていることがわかっても、双方ともその主張をしない、和解契約を守るという効力があります。

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和解は以上のような拘束力をもっていますが、いかなる和解契約にも、そのとおりの拘束力を認めると不当な結果を生ずることがあります。
そこで、特に交通事故の損害賠償をめぐる示談に関して、実際の損害額に比してきわめて低い額で示談が結ばれ、しかも、加害者が被害者の無知窮迫や事故による狼狽に乗じて示談を結んだという事情が認められる場合には、民法九五条(錯誤)や民法九〇条(公序良俗違反)などの規定を用いて、和解を無効とする判例がいくつか現われています。
本問の事例において、円満解決の約束にもかかわらず、なお賠償を請求できるかどうかは、示談金額が実際の損害額に較べて極めて少額で、かつ、学校側が被害者の無知窮迫あるいは狼狽に乗じたものと認められるかどうかによります。
判例の中に、私立高校の遠足で昼食時の自由時間中、女生徒が足をすべらせて川に転落し死亡したのに対し、教職員が香典一〇万円のほか弔慰金として一〇〇万円支払って和解が成立した事案で、被害者の遺族が和解の無効を主張したのに対し、これを認めなかった事例があります。
示談無効の主張が認められた場合に、遠足の昼食時における自由行動中の事故について、引率教員に監視上の注意義務違反による過失が認められるかどうかが問題となります。
平常の学校内における授業時の昼食時間中と異なり、遠足のような場合には、昼食の自由行動中といっても、ある程度生徒を危険な場所に拘束するものですので、引率教員の注意義務もそれだけ重くなるといってよいでしょう。
引率教員としては、遠足先に危険な箇所がある場合には、その点についての注意を生徒に周知させ、現実に危険な状態に生徒が陥ったときには直ちに追切な救助活動をとりうるような措置をとって事故を防止する注意義務があるといえます。
本問では川岸がどの程度危険であるかはわかりませんが、溺死したということからみると、引率教員には遠足中の危険箇所に生徒が近づくのを放置した過失があるのではないかと考えられます。
また、事故が発生したとき、引率教員が生徒からあまりにも遠くにいたとか、生徒に引率教員の居場所を周知させていなかったとすれば、監視上の過失があるといえます。
遠足中に生徒が事故に遭う場合、被害者である生徒にも過失のある場合が考えられます。定員超過のために船が転覆したような場合には、生徒には過失はないといえますが、本問のような場合には、生徒自身、不用意に危険に接近したということができます。この場合には、民法七二二条二項により過失相殺が認められるでしょう。

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