教員の監督責任

私が担任している町立小学校六年生の児童は、日頃ストーブの上のやかんにさわってはいけないと禁止していたにもかかわらず、勝手にそれを持ち出し、給食室へお茶をもらいに行く途中、つまずいてころび、大やけどを負いました。このような場合に、私にも責任があるのでしようか。
小学校教員は監督下にある児童が危険な遊びをしたり、その他危険物によって生命、身体の危険にさらされることのないように、監督する責任を負っているといえます。このことを直接規定した条文はありませんが、小、中学校は児童、生徒の教化育成を目的とする教育機関であり、それぞれに定めた教育計画に従って児童、生徒を授業に出席させ、学校行事に参加させるものですから、学校および教員は児童、生徒の安全を保障する責任があると考えるべきです。児童、生徒が学校内で加害行為をなした場合には、校長、教員が民法七一四条二項の責任を負うと解されていることも、間接的にこの責任を裏付けるものといえましょう。

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ここで問題となるのが、子供の注意力と成長との関係です。民法は子供の責任能力(不法行為をした場合の)に関して、「其行為ノ責任ヲ弁識スルニ足ルベキ知能ヲ具ヘザリシトキ」は、子供自身は責任を負わないと定めていますが、この能力は、単に行為の善悪を認識するだけでなく、その行為の結果なんらかの法的な責任が生じるか否かを認識する能力だとされています。そして、このような事理弁識能力は、一般に小学校卒業の年齢に達しなければ具わらないと解されています。これは、子供が他人に危害を加えた場合の責任能力と年齢との関係ですが、同様のことは、自分自身の危険回避に関する注意能力についてもいえることでしょう。ところで、小学生が本問のような事故を起こした場合、担任教員はつねに責任を免れえないものでしょうか。
これについて参考となる判例があります。この場合の被害者は小学校一年生ですが、事故の状況はほぼ同様でした。裁判所は、事故の直接の原因は、被害者が日頃の教えやきまりに反し、勝手にストーブ上のやかんを持ち出したことにあるとしつつも、ストーブおよびやかんの置き場所または安全柵を施さなかった点などに問題があることも否みえないとしましたが、担任教員たる被告の過失責任の点に関しては、ストーブの設置方法は学校全休の管理に関わる問題であり、一教員の責任には帰しえないとし、かつ、当時かけ持ち授業をしていた被告に、各児童の動向に常時注意をなすべき義務を課することはできないとして、これを否定しました。またその結果、地方公共団体の使用者責任も認められないとしました。
この判例の立場でも、担任教員が日頃子供に十分な注意を与えていなかったとしたら、過失責任は免れないことになりますが、先に述べたように、子供の注意能力を考慮した場合、それだけでは不十分なように思われます。判例の事案では被害者は小学校一年生ですから、ストーブの設置場所、方法などについては細心の注意が必要というべく、その意味で国家賠償法二条にいう「公の営造物の設置管理の瑕疵」が存したといえましょう。ただし、本問のように六年生の児童ともなれば、ストーブややかんの置き場所などを工夫しただけで危険が防止できるとは思われません。営造物設置管理の瑕疵がなくとも、危険にあう可能性は多分にあります。設例の事案もそうした一例と考えられます。しかしこのような場合、日頃児童への注意を怠らなかった教員に過失責任を問うこともいささか抵抗が感じられます。前記判例における裁判所の考え方も、そうした配慮に出たものと思われます。けれども、他方では、やけどした児童の損害について誰も賠償責任を負わないでよいというのでは、これまた片手落といわざるをえません。
そこで、国家賠償法一条の「公権力の行使」を広義に解して、学校教育の場にも適用ありとする考え方や、教員は公権力に似た力をもって児童、生徒を支配する関係にあり、そこに危険も存することから、一条と同様の救済を与えるべきだとする考え方が支持されつつあります。この方法だと、直接責任を負うのは学校の設立者である地方公共団体ということになり、担任教員は重過失がなければ求償されることもありませんから、妥当な結果が得られます。

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