遊戯中のケガ
私の担任の児童が、鬼ごっこをしていて、ほかの児童に背負われて逃げる途中、その児童がけつまずいてころんだため転落し、腕の骨を折ってしまいました。どう解決したらよいのでしょうか。
遊戯中の子供同士の傷害行為の責任を、どのように取扱うか難しい問題です。
野球、ボクシングなどスポーツによる加害行為は、正当業務による行為であり、原則として違法性がなく損害賠償義務は生じないとされています。ボクシングで相手に傷害を与えた場合とか、ホームランで見物人に傷害を与えた場合などそれに当たります。スポーツ等危険を伴う行為については、一般に容認されている行為ですから違法性がないとする理由以外にも、ゲーム中に傷害を受けても賠償請求はしないとする危険の引受けの理論や加害行為を承諾しているとする承諾の理論が、賠償請求権不発生の理由にされることもあります。しかしこれらの理論は、一般の大人(責任能力者)のルールのはっきり決まっているスポーツを念頭において考えられていますので、子供同士のスポーツや遊戯をそれとまったく同様に考えてよいかは問題がありますが、ある程度はそれと同様に扱ってよいと考えられます。すなわち、遊戯もスポーツも発生的には同じものであり、スポーツも遊戯の一種ともいえます。そしてこの遊戯は子供の生活には不可欠のものです。そこで児童の年齢にふさわしい遊戯であって、一般的には社会、学校などが認容し、また具体的には親も認容するであろう遊戯においては、そこから生じた損害は、特別な事情がなければたがいに我慢しあうということが社会通念とも考えられます。そこで遊戯には違法性がないとするわけです。子供の遊戯はスポーツのように積極的に正当業務として評価されにくいかもしれませんが、空手ごっこやキックボクシングごっこのような危険なものを除いては、社会的に容認されているものであることは論をまたないと思われます。そこで、子供の遊戯に通常伴う程度の損害が生じた場合、違法性の一般論からしましても原則として違法性がないわけです。親権者である親は遊戯中の通常の傷害や危険については承諾しているものと考えることもできます。
子供同士の遊戯中の加害行為でも重大な傷害をもたらすものについては、遊戯が一般に容認されているというのみでは違法性がないともいえないし、傷害行為につき親権者の承諾があったと擬制することも困難です。ある判例によりますと、戦争ごっこで竹棒の先端が子供の目にあたり失明させた行為について、戦争ごっこは普通容認されている遊戯ではありますが、他人の身体に障害を引き起こさせる行為は一般に容認されている通常の行動から著しく逸脱しているものであるとして、親権者である加害児童の父に法定監督義務者としての責任を認めました。
一方、他の判例では、それは本事例と類似のケースですが、鬼ごっこ中に他の児童を背負って逃げようとして転例して腕の骨を折った事件において、裁判所は背負われた児童の行為につき違法性を認めませんでした。その行為は客観的にみて条理上是認しうるものであるとしました。以上から推測しますと、背負われた子が腕を折った場合も背負った子が特に危険な場所で走ったとか、乱暴な走り方をしたなど特別の事由がないかぎり、背負った子供の行為は違法性がないと裁判所では判断されると思われます。
しかし、骨折事故はスポーツ遊戯に伴いやすいものとはいえ、場合によっては不具者になることもあり、遊戯中のこの程度の傷害行為には、違法性なしと一概にはいえないと判例の判断を疑問視する論者もいます。そこで、遊戯の危険性の程度、加害行為の態様、損害の程度など相関的に判断した場合、危険性の大きい遊戯であるとか、加害児童に粗暴な行為や不注意な行為があるとか、損害が非常に大きいなどの点から遊戯中の行為でも違法性をおびることがあります。その場合、児童は、法的責任を理解するに足る知能を備えていないので賠償責任を負わずに、親が子供の親権者としての監督義務にもとづいて賠償責任を負うことになります。
事故が学校で起きた場合、親にかわって子供を監督する教師も親と同様に賠償責任を負います。そしてこの責任は教師が監督義務を怠らなかったことを立証しないかぎり免れません。
しかし、この監督者責任は、児童の加害行為が違法な場合はじめて生ずるのであって、遊戯で違法性を欠くとされた行為についてはこの責任は生じません。
そこで結局は、このような遊戯中の事故の被害者は話合いによる解決を別としては、法的な責任を要求することは無理のように思われます。
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