運動部でのシゴキ

私立大学ワンダーフォーゲル部の新入部員の実力錬成を目的とする山行に参加した息子が、上級生部員から、気力不足だとして殴打され、登山靴で蹴られるなどのため死亡しました。加害部員のほか、監督や大学にも損害賠償を請求できるでしようか。
大学の運動部ないし体育会所属の部、会などの性格およびその目的について、本問に類似する判例の見解をみますと、本来、大学の運動部の活動は正規の大学教育の一環としてなされるものと解されています。したがって、その目的は、第一義的には人間形成にあり、憲法一三条が、すべて国民は、個人として尊重されると宣言し、一方、教育基本法が、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとして、その教育の目的は、結局、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的な精神にみちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならないと定めているところから、単に、気力や体力の養成熟心なあまり少しでも人間性を軽視するようなことがあってはならないと判示しています。
そこで、大学におけるワンダーフォーゲル部も、本来、前述のような目的のもとに結成されて活動しているわけですが、一方、その活動が団体行動を中心として、しかも、危険を伴う山岳行動がその主流をなすため各部員には一定水準の実力が要求されます。そのために、とくに新入生部員の実力錬成の一環として山行が実施される場合、その部員には肉体的、精神的苦痛を伴う程度のスケジュールで行動し、その苦痛をのり越えることによって団体山岳行動に耐えうる気力、体力を涵養する点にその意義があるといえます。
一方、かかる錬成の山行を実施する場合、指導監督者には、通常、注意義務として具体的には次のものがあります。すなわち、第一に、事前に山岳行動するコース、気象状況等の調査を十分に行なう義務、第二に、事前に、各新入生部員の運動歴、体力、健康状態等を確実に把握しておく義務、第三に、天候の急変、その他の事情の変化においては、適切な情勢判断をし、それに即応した推薦をとる義務などがあるといえます。

スポンサーリンク

かかる新入生部員の実力錬成の目的から、気力、体力を叱咤激励するために行なわれる「シゴキ」は、普通、社会的に許容される範囲内のものである限り、かかるシゴキに際して生ずる、通常、予想されうる程度の肉体的苦痛や精神的屈辱感を与えても、本来、その程度のことは受忍すべきものといえます。ところが、体力が著しく消耗しているにもかかわらず、気力不足だとして身体を殴打し、あるいは登山靴で足蹴りするなどのいわゆる「シゴキ」のような錬成方法は、まったく人格蔑視も甚だしく、結局、それは前記第一義的目的にも反し、ひいては違法な行為となる場合があります。
本来、部の組織は、通常、学生有志による同好会として発足し、のち大学の認可をうけて部に昇格、そして部則の制定、部長、顧問ないし監督、主将などの各役員を定めるなどして活動することになります。
そこで本問の場合をみますと、かかる組織体による大学教育の一環として行なわれる課外活動としての錬成行為において、監督など指導者が引率しているのにもかかわらず、当該上級生部員らによる暴行行為は、まさにそれは共同不法行為であり、かつ、その死亡との間に因果関係の存するのは否定しえず、結局、かかる「シゴキ」によって死亡したものといえます。そこで、民法七一九条をみますと「数人の者が共同して不法行為を行なって、他人に損害を加えた場合には、その数人の加害者は被害者に対して各々連帯して、損害の賠償責任を負う。一緒に行動していた者の中の誰が損害を与えたのかがわからない場合には、そのとき一緒に行動していた者全員が、各自連帯して損害の賠償責任を負い」、さらにまた、「他人をそそのかせて不法行為をさせた者および他人の不法行為を幇助した者は、現実に不法行為をした者と連帯して、損害の賠償責任を負う」と規定しています。なお、この場合も基本的には、民法七〇九条の規定する不法行為の一般的要件、すなわち、故意、過失、責任能力、違法性、因果関係の存することが必要です。
したがって、結局、加害部員をはじめ監督および大学に対しても連帯責任としてその損害賠償を請求することができると思います。なお、大学にも請求しうる根拠は、本来、ワンダーフォーゲル部は前述したような手続によって生まれ、かつその活動 は大学教育の一環として行なわれているもので、したがって、大学は平素、運動部が事故を起こさないよう注意を払う必要があります。ところが、それにもかかわらず 本問のような事故を起こせば、結局、それは大学が一応相当の注意を怠ったものとして、賠償責任を負わねばならないことになります。これは、いねば一種の「無過失責任」に近い重い責任といえます。ところが、大学側が相当の注意を怠らなかった場合、または相当の注意をしても事故の発生を防止しえなかったことが立証されれば、賠償請求はできないことになります。
また、請求できる範囲は「死者のうべかりし利益の喪失」(逸失利益)が中心ですが、そのほか治療費、葬式費用も請求できるほか、精神上の損害、すなわち慰謝料も請求することができます。

幼稚園の送迎バスの事故/ 登下園中のつきそい保母の責任/ 園児の安全を守る義務/ 保育時間中の保母の注意義務/ 保育時間終了後の事故/ 無認可保育園での事故/ 会社内にある無償の臨時保育所でのけが/ 通学中の事故防止と学校の責任/ 職業技術授業中の事故/ 教師個人の責任/ 体育教員の注意義務と責任/ 水泳授業中の事故/ 必須クラブ活動中の事故/ 示談解決の約束の効力/ 掃除中の事故での賠償請求の相手/ 教員の監督責任/ 臨海学校における引率教職員の注意義務/ 臨海学校中の旅館の事故/ 課外活動での事故における引率教員の責任/ 学校での休憩時間中の事故/ 禁止されている朝礼台に登ってのケガ/ 校舎工事中の事故/ 遊戯中のケガ/ 放課後に野球していてケガ/ 放課後の校内で遊んでいての事故/ 校庭で教師の車にはねられる/ 校庭解放中の事故/ 体罰を受けたが/ 体育授業における担当教員の注意義務/ 危険な種目と担当教員の注意義務/ 乱暴なプレーでのケガ/ 登山中の事故/ 運動部でのシゴキ/ 大学対抗ラリー中の事故/ 放課後に学園祭の準備をしていて失火/ 課外活動中の事故/ 机運び中の机の落下/ 競技連盟主催の公式協議中に事故/ 国体に参加し公開練習中に事故/ 先生の懲戒行為と違法性の関係/ 各種学校行事と経営者の責任/ 主催者の事前の注意義務/ スキーヤーとぶつかり重傷/ 塾生の引率教員の注意義務/ 幼児の体育指導とその注意義務/ 遊園地の遊具による負傷/ 近所の子と市営プールに行き溺れる/ 市民会館の階段で子供が転落/ ドブ川に転落/ 公園内の池に転落/ デパート内のエスカレーターで足を踏み外す/ デパートの一時保育所で窒息/ デパート内で客のペットが幼児に咬みつく/ 食堂でお湯をこぼされ火傷/ スケート場で衝突し骨折/ 野球観戦中にボールが飛んできてケガ/ 海水浴場で救助船が遅れて水死/ 登山標識が間違っていて遭難/ スキー事故の原因と責任/ ゲレンデでパトロール員と衝突/ 公団住宅の庇がはがれてケガ/ 友人宅の自家用プールで水死/ 塀を乗り越え無断で空地に入り事故/ 工事のために掘削された穴に落ちたが/ 私有地のため池に落ちたが/ 工場敷地内の危険物に触れてケガ/ 他人の土地でも危険防止措置の要求ができるか/ 野球をしていて盆栽や窓ガラスを壊した/ 子守りを頼んでいた間に交通事故/ 隣家の飼犬に顔をひっかかれた/ 動物園のクマに咬まれた/ 踏切の下をくぐって轢かれる/ 路上で遊んでいてはねられた/ 飛び出し事故にも賠償請求ができるか/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク