先生の懲戒行為と違法性の関係

高校三年生の息子が、授業中の態度が悪かったことから、担任教師からかなりひどく叱られ、その夜に自殺しました。学友数人に送った遺書にも担任教師を恨む旨が書かれていたそうです。担任教師がもっと教育的でいてもらいたかったと思いますが、せめて、そのつぐないのため損害賠償を請求しようと思いますが、認められるでしょうか。
教員は、教育上必要があるとみとめるときは、生徒に懲戒を加えることができます。この懲戒行為は、子供を教育する上で必要な限りにおいて許されるものです。
したがって、教員の懲戒権は、正当な行使の範囲内でなされたものである限り違法性がなくなるわけです。このような正当な業務行為は違法性が阻却されます。このことは、しばしば法令で規定されています。例えば教員の懲戒行為の他にも少年院の長の懲戒行為、親権者の懲戒行為などがあります。
ところが、懲戒行為の限界をこえて体罰を加えることは許されていません。体罰を加える行為は違法性を帯びることになります。もっとも、具体的な事案において体罰にあたるかどうかを判定することは容易ではありません。
子供の死亡を理由として親が損害賠償を請求するためには、懲戒行為と死亡との間に因果関係がなければなりません。因果関係は、まず事実としてその加害行為から損害が生じたかどうかという自然的因果関係が問題になります。しかし、それだけですと因果関係の成立する場合が非常に多くなりますので、そのうち、法律上の賠償責任が生ずる場合を限定する必要が生じます。これは、法的因果関係とよばれていますが、この点につき通説、判例は、民法四一六条を不法行為に適用し、通常生ずべき損害を原則とし、特別の事情による損害も加害者に予見可能性があれば賠償すべきであるとしています。
判例は、本問と類似のケースにつき、違法な懲戒によって受けた衝撃により生徒が自殺を決行することは通常生ずべき結果ではなく、また、生徒の自殺を招来することについての特別な事情につき教員が予見することは困難であったとして因果関係を否定しています。

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国家賠償法一条一項は、「国または公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定していますが、教員の懲戒行為がここにいう「公権力の行使」にあたるかどうかが争われています。ところで、判例はこれを肯定する傾向にあります。これらの判例は、公権力を、私人と対等の関係にたつ私経済作用を除いたすべての国または公共団体の作用であると考えています。これは、被害者の保護を拡大しようという国家賠償法の立法趣旨にかなった考え方であり、妥当な結論であるといえます。
民法七一五条一項は「或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行二付キ第三者二加ヘクル損害ヲ賠償スル責二任ス」と規定しています。私立学校における学校事故の場合には、国家賠償法の規定が適用されませんから民法七一五条の適用の可否を検討することが必要になります。そして解釈上は、特に懲戒行為が民法七一五条の「事業ノ執行二付キ」なされたものであるかどうかが問題になります。この点、一般に被用者の行為が使用者の事業の範囲内にあること、また、被用者の職務の範囲内にあることが必要です。判例は、前者につき使用者の事業自体だけではなくて密接不可分の関係にある業務も含むとしています、また後者については、被用者の主観的意図をとわずに客観的に行為の外形を標準として判断し、職務の範囲をひろく解するとともに、その行為が取引上の不法行為でなくても、たとえば被用者が私用で自動車事故をおこした場合のような事実的不法行為も職務の範囲に含めています。したがって、教員の懲戒行為は使用者の事業に密接不可分な事実的行為といえますから、判例の一般的な考え方からすれば、民法七一五条で 問題を解決することは可能です。
国または公共団体の責任を問う場合には、その法的根拠として国家賠償法一条と民法七一五条の二つが考えられます。二つの条文を比較してみますと、まず、後者では、使用者(国または公共団体)は、被用者(教員)の選任監督について相当の注意をすれば免責されますが、前者ではその余地はありません。この点では、前者の方が被害者の保護に厚いといえます。しかしながら判例は、民法七一五条の使用者の免責をほとんどみとめませんから、いずれを適用しても結果において変わりはないといえます。
次に、加害者の公務員の立場からしますと、前者の国家賠償法一条によれば、国または公共団体が直接に責任を負い、公務員は個人責任を負わないというのが大半の判例の考え方です。後者の民法七一五条によれば、使用者が責任を負うとともに被用者も独立して責任を負うことになります。したがって、加害者の公務員には、前者による方が有利だといえます。
ところで判例は、公立高校における生徒の転落死亡事故につき、民法七一五条は純然たる私経済作用により生じた使用者責任を追及するものであって、本件(公立学校)事故には適用の余地がないとしています。このように判例は、国、公立学校の責任は民法七一五条によらず国家賠償法一条で処理し、私立学校の責任は民法七一五条で解決しようという傾向のようです。
息子さんが死亡したことについての損害賠償(逸失利益とか慰謝料)を請求しようとするときは、その前提として先生の懲戒行為と子供の自殺との間に法的因果関係が成立していることが必要です。本問では、先生がかなりひどく叱ったことしかわかりませんので、因果関係の成否の判断は困難です。しかしながら、懲戒による精神的衝撃が極めて重大で、以後登校は おろか生きる望みすら喪失するほどの状況にあったと認定できる場合は別として、本問のようなケースについて因果関係をみとめることは一般に難しいように思われます。判例は、本問と似たケースにつき相当因果関係がないとして損害賠償請求を否定しています。
しかし、懲戒をうけて自殺するに至るまで子供自身が生前こうむった精神的苦痛に対しては、懲戒行為そのものが違法であれば、不法行為が成立しますから、慰謝料がみとめられます。そして本問に即していえば、子供が取得した慰謝料請求権をあなたが相続することになります。このため、この慰謝料に関してだけ、国、公立の場合は国家賠償法一条で、また、私立の場合は、民法七一五条で高等学校に対し賠償請求できます。

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