幼児の体育指導とその注意義務

五歳になる子供が、民間スポーツクラブの体育館に通っていたところ、その体育館のトランポリンで友達と運動中、他の子供の膝と頭がぶつかり、脳内出血で翌日死亡しました。スポーツクラブに損害賠償を請求できるでしょうか。
幼児は体力的にも基礎的な運動知識、経験においてもいたって末熟ですし、自己の行動の結果を判断する能力を欠くものですから、体育指導者はこの者の体育訓練に際し、この者の身体の安全保護に細心の注意を払わねばならないのと同時に、この者の行動から生じた損害に対し一定の重い責任を負わされているといえます。この子供の場合、通っている民間スポーツクラブの体育館内での他の子供との衝突による死傷事故ですので、かかる体育指導上の責任者であるスポーツクラブ、法人でなければその代表者に損害賠償を請求できますが、そのためには次のような問題が考えられます。
普通、民間のスポーツクラブは幼児を講習に参加させるにあたり、その父母など親権者、または後見人と幼児の体育訓練委託契約を結び受講料を徴収しています。これにもとづき、クラブは親権者に対し幼児を体育訓練する債務を負い、これに付随して、幼児の身体安全についての保護注意義務を負います。したがって、本問の死傷事故が、たとえば、幼児の訓練方法としてトランポリンのような高度の危険をともなう種目を選んだことに無理があるとか、その実施に際し事故防止のための措置に手ぬかりがあるとか、適切な指導者による指導を欠いているとかの事由によるのであれば、クラブに対し幼児の安全注意義務違反を理由に債務不履行にもとづく損害賠償の請求ができます。ただし、かかるクラブの不手際(故意、過失)を証明する必要はなく、この賠償請求を免れたいとするクラブが証明しなければならないしくみです。

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それとは別に、故意、過失により他人の権利ないし利益を違法に侵害した者はこれから生ずる損害を賠償する不法行為責任を負いますので、本件の死傷事故の直接の原因が、未熟な幼児を対象とする体育訓練、実施計画についてクラブに相当な無理があったと判断できる場合は、過失が認められクラブに損害賠償を請求できます。また、トランポリンに同時に数人の幼児を乗せる際に指導がゆきとどかなかったとか、監視を怠っていたとかであれば、指導者、監視者に過失が認められますからこれらの者に、また、これらの者の使用者であるクラブに対し、これらの者の選任、監督上の相当な注意を欠いていればそれぞれ損害賠償を請求できます。他方、他の責任判断能力を欠く子供の乱暴によって事故が起きたのであれば、その子供の監督義務者たる親権者に代わって幼児体育訓練委託契約により監督義務者とみられるクラブないしその指導者に対し、この子供の監督不行届を理由に損害賠償を請求できるでしょう。
スポーツクラブに入会の際、クラブは文書(入会証など)または口頭で「幼児の指導上から生じた一切の傷害事故に対し当方は何ら責任を負いません」との免責条項を親権者に承知させるケースがあり、事故が起きた後、この効力をめぐってよく争われます。この条項が子供や親権者に対し安全注意を喚起する警告的なものであれば問題ありませんが、法律上までも拘束するとしたら、前述の契約上、不法行為上の両損害賠償請求権を行使できなくなるのではないかとの懸念さえ生じます。しかし、この条項は、本件の幼児体育訓練上、親権者において通常予測しえた侵害の限度でこの者を法的に拘束しますが、それを越える場合はなんら拘束しないものとされています。
直接にはスポーツクラブに対する損害賠償の請求ではありませんが、最近、クラブは事故対策としてスポーツ安全協会(財団法人)によって創設された傷害保険に加入している場合も少なくおりません。この場合、親権者は被保険者である子供の相続人として保険会社に死亡保険金を請求できます。

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