市民会館の階段で子供が転落

私は市民会館で開かれた講習会に出席のため、二歳になる長女を連れていきました。受講中、長女が会場から出て階段付近で遊んでいるうち、階段裏の隙間から転落して死亡しました。市民会館側では、この場所は、子供が来ることの予想していなかったところであること、私の注意も足りなかったことを理由に責任がないといっていますが、そうでしょうか。
市民会館と呼ばれている施設は、通常、市が設置した公民館もしくは類似の施設であると考えてよいでしょう。市民会館は、市民のために、実際生活に即した教育、学術、文化に関する各種の事業を行なうことを目的としていますから、講習会なども当然開催されることがあるわけです。また市民会館は大学以外の教育施設ですから、市の教育委員会が所管します。
社会教育は、学校教育以外の組織的な教育活動であり、主として青少年および成人に対して行なわれるものですから、家庭の主婦なども当然にその対象に含まれます。したがって、主婦が幼児を違れて市民会館の講習会に出席するということは、通常予想される事態であるといわなければなりません。市民会館の側が、もし子供を連れてくること自体を予想していなかったと主張するのであれば、それは社会教育施設としての市民会館の使命を忘れたものといわざるをえません。また、本問の場合のように成人向けの講習会等については、権力的要素はきわめて薄弱ですから、公権力の行使にあたる公務員の違法行為に関する国または地方公共団体の責任を規定している国家賠償法一条にもとづく損害賠償請求は困難でしょう。

スポンサーリンク

裏に隙間があるような階段を設置していたことが公の営造物の設置、管理の瑕疵といえるか、またそうした場所に幼児が一人で行けるような状態にしておいたことについて施設管理上の瑕疵があるのではないか、ということが問題になるでしょう。前述のように講習会等には子供連れの主婦が参加することは当然に予想されることですから、市民会館の施設はそうした点をも考慮した設計がなされる必要があります。したがって、一般市民が通行できるような階段の裏に、幼児が転落する程の隙間を残しておいたということだけで、すでに施設の瑕疵といいうるでしょう。また当該施設が建築基準法に違反していなかったとしても、それだけで瑕疵の存在を否定することはできません。同法は建築物について最低基準を定めているにすぎず、国家賠償法上の瑕疵とはその存在理由を異にしているからです。
かりに、この階段が一般市民の通行するものではなく、その意味で、子供が来ることの予想していなかったところであるとすれば、階段裏の隙間だけでは施設の瑕疵とはいえないという主張も成りたつかもしれませんが、その場合には、幼児が入り込んでしまうような状態にしておいたことについて施設管理上の瑕疵があったということができるでしょう。本問では、会場から出て階段付近で遊んでいるうちに生じた事故ですから、会館側は施設管理上の瑕疵にもとづく責任を否定することはできないでしょう。すなわち、このような場合には国家賠償法二条の「公の営造物の設置または管理に瑕疵があった」ために「他人に損害を生じた」に該当しますから、市は損害賠償の義務を負担します。この場合には会館職員の故意、過失を必要としません。
母親が幼児を連れて講習会に参加したことについては、故意、過失は問題になりません。問題は受講中、幼児から眼を放していたことについての過失です。幼児の場合には常に母親の眼のとどく範囲内で遊ばせておくことが望ましいわけですが、万一、本問のように受講中、会場外へ出て行ってしまったような場合には、当然その行先を見届け、その遊んでいる場所が安全であることを確認すべきでしょう。本問の場合には、このような親権者としての当然の義務を果たしていないように思われますので、幼児の転落死については親権者たる母親の過失も寄与していたというべきでしょう。しかし、このようにいい切ってしまうには問題があります。子供述れの母親が安心して社会教育を受けられるためには、子供を保育所なり託児所に預けておくのが望ましいわけです。母親に対する社公教育を発展させるにはこの点に関する配慮が不可欠でしょう。こうした点を配慮しますと、道義的責任は別として、母親に法律上の過失を認めることはやや酷であるかもしれません。
幼児の転落死が会館の設置、管理上の瑕疵と母親の過失との競合によって発生したといえる場合には、過失相殺により市の損害賠償額は減額されます。なお、国家賠償法二条は無過失責任とされていますが、過失相殺は、本来、責任相殺の趣旨ですから、同様に考えてよいとされています。

幼稚園の送迎バスの事故/ 登下園中のつきそい保母の責任/ 園児の安全を守る義務/ 保育時間中の保母の注意義務/ 保育時間終了後の事故/ 無認可保育園での事故/ 会社内にある無償の臨時保育所でのけが/ 通学中の事故防止と学校の責任/ 職業技術授業中の事故/ 教師個人の責任/ 体育教員の注意義務と責任/ 水泳授業中の事故/ 必須クラブ活動中の事故/ 示談解決の約束の効力/ 掃除中の事故での賠償請求の相手/ 教員の監督責任/ 臨海学校における引率教職員の注意義務/ 臨海学校中の旅館の事故/ 課外活動での事故における引率教員の責任/ 学校での休憩時間中の事故/ 禁止されている朝礼台に登ってのケガ/ 校舎工事中の事故/ 遊戯中のケガ/ 放課後に野球していてケガ/ 放課後の校内で遊んでいての事故/ 校庭で教師の車にはねられる/ 校庭解放中の事故/ 体罰を受けたが/ 体育授業における担当教員の注意義務/ 危険な種目と担当教員の注意義務/ 乱暴なプレーでのケガ/ 登山中の事故/ 運動部でのシゴキ/ 大学対抗ラリー中の事故/ 放課後に学園祭の準備をしていて失火/ 課外活動中の事故/ 机運び中の机の落下/ 競技連盟主催の公式協議中に事故/ 国体に参加し公開練習中に事故/ 先生の懲戒行為と違法性の関係/ 各種学校行事と経営者の責任/ 主催者の事前の注意義務/ スキーヤーとぶつかり重傷/ 塾生の引率教員の注意義務/ 幼児の体育指導とその注意義務/ 遊園地の遊具による負傷/ 近所の子と市営プールに行き溺れる/ 市民会館の階段で子供が転落/ ドブ川に転落/ 公園内の池に転落/ デパート内のエスカレーターで足を踏み外す/ デパートの一時保育所で窒息/ デパート内で客のペットが幼児に咬みつく/ 食堂でお湯をこぼされ火傷/ スケート場で衝突し骨折/ 野球観戦中にボールが飛んできてケガ/ 海水浴場で救助船が遅れて水死/ 登山標識が間違っていて遭難/ スキー事故の原因と責任/ ゲレンデでパトロール員と衝突/ 公団住宅の庇がはがれてケガ/ 友人宅の自家用プールで水死/ 塀を乗り越え無断で空地に入り事故/ 工事のために掘削された穴に落ちたが/ 私有地のため池に落ちたが/ 工場敷地内の危険物に触れてケガ/ 他人の土地でも危険防止措置の要求ができるか/ 野球をしていて盆栽や窓ガラスを壊した/ 子守りを頼んでいた間に交通事故/ 隣家の飼犬に顔をひっかかれた/ 動物園のクマに咬まれた/ 踏切の下をくぐって轢かれる/ 路上で遊んでいてはねられた/ 飛び出し事故にも賠償請求ができるか/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク