食堂でお湯をこぼされ火傷

買い物の帰り、食堂に入りました。そこで店員が運んできたお湯をこぼされ、私の子供が火傷をしました。食堂が混んでいたので他の客と接触したのが原因だそうです。このようなとき、だれに損害を賠償してもらえるのでしょうか。
私達日本人は、本件のようにお湯をこぼされた位では従来は、訴訟までして損害賠償を請求するところまではいきませんでした。せいぜい、誰かに仲に立ってもらい僅少の金銭で示談を行ない、それで万事水に流すというかたちがとられました。
ところがこの頃は、権利義務をはっきりさせるべきだとの考え方もだんだん強くなってきまして、裁判所においてクロシロをはっきりさせるかたちで決着をつけることも多くなってきています。このことは泣き寝入りしているより進歩といえましょう。
ところで、本件では、店員が運んできたお湯をこぼし、子供が火傷をしたとのことですが、店員の行為は不法行為成立についての過失にあたるかがまず問題となります。
食堂の店員の負う注意義務の程度はその職業において社会的に要求されている程度が斟酌されるわけですから、一般人より若干高いと考えるのが常識でしょう。この場合、店員の不可抗力を認めるのは困難で、過失によりこぼしたといえるでしょう。食堂が混んでいれば当然他のお客が立ち上がったり、歩いたりすることが予想され、これに常に対応できるだけの注意義務を課せられていると考えられるからです。
一方、食堂に対しても、店員の行為は「其事業ノ執行」中に行なわれたものですから、民法七一五条の使用者責任を被害者は追及することができます。食堂は店員の選任、監督を怠っていないことを立証して使用者責任を免れようとするでしょうが、裁判所では使用者の主張をほとんど認めませんから、食堂の責任は事実上無過失責任であるとさえいえるでしょう。
このように、被害者は店員個人か食堂のいずれにも損害賠償を請求することが可能であるといえます。損害賠償を食堂が払えば、食堂は加害者店員に求償することができることになっています。

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次に、接触したお客にも損害賠償義務があるかどうか考えてみましょう。
民法七一九条は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは共同不法行為になり各自連帯して損害賠償する義務がでてくると規定しています。つまり共同不法行為が成立すれば、店員、食堂、接触したお客の不真正連帯債務となり、対被害者関係では全損害額の責任を負うことになります。共同不法行為者の一人が被害者に全部または自己の負担部分以上の賠償をしたときは他の共同不法行為者に対して求償でき、その責任の割合は損害に対する寄与の割合ということになり、はっきりしなければ各人平等ということになります。
ところで、共同不法行為が成立するためには各人の行為が不法行為の要件をみたしていることが必要だといわれています。つまり、各人の行為が独立の行為であり、また、各人の行為に故意、過失、違法性、責任能力、因果関係などが存在することが必要となります。ここでは、客と店員との接触によりお湯がこぼれ、子供が火傷をしたということですが、店員の行為は前述したように不法行為責任を負うと考えられますゆえ、問題はお客にも不法行為責任を問いうるかです。そこでここではさしあたり、お客の接触行為と子供の火傷との間に因果関係が存在するかどうかが重要な問題となります。しかしこの判断は、他人の行為(本件では店員の行為)との関連媒介でなされなければならないため、単純な不法行為の成立要件の問題に比較しては、困難であるといえましょう。学説や判例もどのような場合に因果関係があるのかという基準については必ずしも一致していません。判決例の中には、AB両社から流出した薬品が相合して初めて下流における人畜に被害を与えた場合にも共同不法行為が成立するとしたものがあります。このような一連の判決例の存在は、お客にも共同不法行為責任があるとの判断が下される可能性が相当あると推測されます。これらの系譜の判決は公害判決にまで及んでいます。しかしそこまで相当因果関係を拡大するのは、本件においては妥当性を欠くようにおもわれます。
さらに共同不法行為の成立には、各行為者の間に共同関係が必要であるとされています。判例や学説の多くは、この共同関係は客観的に関連共同でよいと説いています。この結果、因果関係の拡大と合して容易に共同不法行為責任が認められる可能性があります。これは公害などについては妥当な考えですが、本件のような場合、その具体的妥当性から別に考えねばならないように思われます。お客が店員をつきとばしたというなら格別、立ち上ったらそこへ店員がきて接触しただけで全額の賠償義務を負わすのは妥当でないと考えられるからです。
結局、本件では、法理上は因果関係をしぼることにより、あるいは主観的な関連共同を必要とする説の採用により、共同不法行為の成立を否定するのが妥当でしょう。
しかしもう少し考えてみますと、お客の行為は故意でつきとばしたという場合を別として、そもそも不法行為責任上の行為としての評価をうけるべきであるかどうかは疑わしいのです。訪門客のくるところでは店員は高度の注意義務が課せられており、客が不意にたちあがることなどは通常予想される危険といえるからです。つまり、店員は机にぶつかってお湯をこぼしたと同様の評価をすることさえ可能なのです。したがって、このような観点からも客の共同不法行為責任を否定することができるように思われます。
なお、傷をうけ死亡にも等しいような場合は親にも慰謝料の請求権があることを付言しておきます。

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