友人宅の自家用プールで水死
友達宅に招待されていった子供が、その家の自家用プールで溺れて死にました。友達同士で気がひけますが、このままでは釈然としません。どうすればよいでしょうか。
まず、訴訟になった場合に考えておくべき問題点をあげてみましょう。ここではプールの所有者である親が不法行為責任を負うかどうかです。
第一は、プールの所有者に過失がなかったかが問題となります。水泳中プールの周囲で監督者がいたかどうか。溺れたときにすぐ救助できるような人的、物的設側がととのえられていたかどうかなどが過失の存否について要素となります。
判例によれば、プールでの溺死者側から学校の教員に不法行為責任を問うた事例において、水泳未経験者のための講習会で、講習時間以外にも水泳を禁ずるために追切な処置をとるべきであり、講習後にプールが受講者以外の者に開放されている場合、先生の監視員としての任務は解放されていないと判断されています。
また、大人用の深さにつくられているプールに漠然と子供達を入れたのであれば過失は免れないでしょう。若干古い判例ですが、水深一・九五メートルの競技用プールの管理者が一一歳の少年に入場を禁ぜず、水泳がよくできるかどうかを確認しないで入場させた場合に過失ありとしています。
これらの事件はいずれも営業用ないし公衆用プールで起きたものですが、自家用プールにおける過失は別に考えられるのではないかとの疑問が生ずるかもしれません。しかし、両者の間に注意義務を異にすべき何らの実質的根拠はないといえます。素人とでも危険をともなう施設を保有している場合は、事故を訪ぐ適切な措置をしなければなりませんし、また、そのプールの性質を知っているのは所有者ですから使用者にどこが危険かなどを伝える管理義務があると考えられるからです。
なお、これらのいずれの場合にも過失相殺の適用があったことを注意すべきでしょう。講習時間外に使用禁止の注意をうけ、さらに泳ぎが十分できないにもかかわらずプールを使用したことは、被事故者についても過失があるとされ、損害賠償額を減額されています。また、後の例では、被事故者の両親は従前から息子がプールに入場していることを聞いており、水深の点で危険があることを知っていたにもかかわらず、プールに入場の機会を与えたことは過失があるとされています。
第二は、プールが本来水泳場として備えているべき設備、性質を欠いていなかったかどうかです。プールの設置または保存に瑕疵があれば、所有者は無過失責任を負うことになります。よく問題となるのは、プールの深さとの関連です。
小学生にとって、水深一・四〇メートルは危険な場所であるから、浅いところと深いところの区別を徹底させるべきであり、たんにプールの中央部両側面に赤い印をつけたり、あるいはその付近に鉄棒が取り付けてあったくらいでは小学生が夢中になり境界を越えてしまうことがしばしば起こりますから、プールの性質上当然備えておくべき設備を欠いた瑕疵があるとされています。
ところで、私達の社会ではこのような事故が起こった場合、当事者が話し合って、加害者が一定の金銭を支払い、被害者の方ではそれ以上の請求権を放棄するというかたちでトラブルを終わらせることが多いようです。これがいわゆる示談といわれるものです。
示談が民法上の和解、つまり当事者が互いに譲歩して両者の間に存する争いをやめることを目的とする契約かどうかは争われますが、その契約内容が一定の法律効果をもつことは疑いありません。したがって、いったん示談がなされれば、被害者は示談当時あるいはその後にそれ以上の損害があっても請求することはできないわけです。このような場合とくに問題となるのは、示談後に後遺症が発生し予期せぬ被害が起こったときです。裁判所は、全損害を正確に把握しがたい状況で、急いで少額の賠償金で満足する旨の合意がなされていたとしても、示談当時予想していた損害についてのみでその当時予想できなかった不測の後遺症までの損害賠償を放棄したとはいえないとしています。しかし、個々の場合に、改めて損害賠償請求ができるか否かは最終的に裁判所の判断を待たないとわかりませんから、軽率に示談をするのは危険であるといえましょう。
特に、今日の社会ではいろいろな目的のために示談がきわめて便宜的になされるので後になって紛争が生ずることが多いのです。例えば、示談は、警察署や裁判所に提出して刑事事件の情状酌量のための資料とするためになされたり。あるいは、自動車損害賠償保険金を請求する手続の必要性からなされることもあります。このような場合、被害者が、損害賠償の請求権を放棄して示談をしたかどうかは疑問であり、通常はそう考えられないからです。しかし法律的には被害者の事情が当節には受け入れてもらえるわけでなく、弁護士に依頼してその無効性を主張立証して貰わなければならないのです。そのためにはお金と手間がかかるという不利益を被害者はこうむることになります。それゆえ、示談をするなら相当慎重になすことが必要だということになります。
なお、いうまでもないことですが、いったん示談が無効ということになれば子供の死によって惹起された全損害をプール所有者に請求できることはいうまでもありません。子供自身の財産上、精神上の損害、親の財産上、精神上の損害すべてを含みます。
これは示談をしないで始めから訴訟でいく場合と同じ額です。
訴訟に際しては時効の問題がありますから、余り長くひきのばさないことが必要です。
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