子守りを頼んでいた間に交通事故

私は、近所の主婦に二時間ほど三歳の子供の子守を頼み、買い物に行きました。ところが、その人が雑談し目をはなしているうちに、子供が米屋の配達車にひかれ死亡しました。主婦と米屋さんの両方に、賠償請求しようと思いますが、どうでしようか。
外出などのために近所の人に一時子供の世話をお願いするという例は多くみかけますが、この場合、依頼を受けた人が子供を預かることを承諾しますと、ここに委託契約が成立します。期間の長短とか報酬の有無は契約の成立に全く影響ありません。この契約の法律的な性質については一般に準委任と解されており、受任者は善管注意義務を負担することになります。本件において、子供をあずかった近所の主婦が雑談に夢中になり、そのために監督が不十分となって子供の死亡事故が発生したというのですから、その主婦に善管注意義務違反があったことは間違いありません。したがって、その主婦に対して償務不履行にもとづく損害賠償請求権を行使することができます。しかし、法律上はそうはいえても近所の人と争うことはその後の交際を考えればあまり好ましいこととはいえませんし、また頼んだ方にも責任がないとはいえませんので、裁判より話し合いによって解決をはかるほうが得策といえるのではないでしょうか。

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また、本件における子供の事故の直接の加害者は米屋ですから、その加害行為が米屋の過失によるときは、米屋に対して不法行為にもとづく損害賠償請求権を行使することもできます。ただこの場合、請求するほうで加害者の過失を立証しなければならないわけですが、実際問題として立証することがなかなか難しく、そのために不法行為の成立が否定されて損害賠償の請求が効果をおさめないという場合が従来非常に多かったようです。しかしこれでは被害者の救済にはならないので、昭和三〇年に制定された自動車損害賠償保障法は、自動車事故による被害者保護のため、自動車運行供用者の賠償責任を強化する規定を設けました。それは同法三条に明記されていますが、それによれば、被害者が損害賠償を請求する際には加害者の過失についての立証を不要とする旨を明らかにしています。そして加害者が損害賠償を免れるためには、自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと、の三点について立証しなければならないものとしています。これは、結果的には被害者に課せられていた立証責任を加害者に転換させるものであり、この三点すべての立証は事実上不可能であることから、被害者の救済に役立っているといえましょう。したがって、米屋の過失について立証せずに、米屋に対して損害賠償を請求することができます。
ところで、損害賠償を請求した場合に、米屋のほうで、たしかに子供をひいた自分は悪いが、子守を引き受けた主婦の不注意にも問題かおるのだから、損害賠償の額はその分だけ減らしてくれと主張してきたら、いったいどうなるのでしょうか。これは一般に過失相殺の問題とよばれ、損害賠償額を定める際に裁判所がこれを考慮にいれることができるものとしています。ここで被害者の過失というのは、被害者本人の過失だけでなく、広く被害者側の過失を意味するものと解されており、監督者たる父母またはその被用者である家事使用人等のように被害者と身分上ないし生活上一体をなすとみられるような関係にある者の過失がこれに当たるとするのが判例の態度です。この判例の立場からしますと、本件のように、単に子守を頼まれたにすぎない近所の主婦と被害者の子供との間にはこのような一体関係があるとはとうてい考えられませんので、主婦の過失は被害者側の過失に含まれないことになり、結局、米屋の行なう過失相殺の主張は認められないことになると思われます。

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