赤ちゃんのほほえみ

 新生児期の微笑のような表出は三ヵ月頃の、大人の微笑や音声等に対して反応する社会的微笑と区別して「反射的微笑」とか「無条件微笑」、「筋肉運動型微笑」などと称されています。最初のあらわれは四、五目から十日前後というのが観察者の一致するところですが、S児の場合は四目目のゆあみの時にきわめてほのかな微笑に似たけいれんとして始まりました。それはちょうど仮睡の状態から睡眠と覚醒の交替が規則的になった日と一致します。その後、授乳後の満足な状態や充分な睡眠から目覚めたときなど、いずれも安静のときにさかんにあらわれます。頬や掌を押したり下腹部をなでると体の動きが盛んになり表情が目立ってゆみます。(一四日目)安静時に一定のところを注視しています。(二二日)生後二十九日にS児は筆者の正面の顔に明らかに反応して微笑をあらわしました。これは社会的微笑の最初のあらわれです。この頃の精神発達の顕著な特徴は視覚的定位づけ、積極的社会的反応、目と首の協応等の機能化です。
 以上のように生まれてから一ヵ月の間に未分化の混沌から漸進的にしかも碩実に情動分化のきざしが見え始め、そのあらわれを通じて子どもが外界とのつながりをもつようになる事情が認められます。言うまでもなく泣くことや微笑の発現時点や頻度、その分化の時期には個人差がある。特に微笑反応の発現時の前傾は精神発達の進んだ場合にみられます。これはとりもなおさず子どもの大脳生理の面にも変化がおこって、はじめ生理的興奮は辺繰糸、脳幹の関係で駆動されていますが、外界認知の条件が加わるにつれて、皮質の介入のルートが開かれてきたことを物語るのです。

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 新生児期の生理的微笑を微笑発達パターンの第一段階とすれば、ニカ月から六ヵ月までの人間一般にむけられる微笑反応の時期は第二段階とすることができます。今日まで乳児期の微笑観察者が扱ったのもおおむねこの時代の微笑反応である。なかでも微笑反応の発達パターンとその普遍性、微笑をひきおこす条件などの研究を総合的に行ったのはスピッツで、彼はその結果を精神分析理論を枠組として対象関係論を展開しています。
 被験児には家庭児と施設児とを選び、家庭児群は更に夫婦単位の核家族の第一手(A群)と、比較的多人数の家族構成とに分けました(B群)。施設児は公、私立の乳児院に求めました。
 この横断的実験観察と縦断的観察結果から次のような乳児期の微笑の発達パターンが浮び上ります。
 生後一年の微笑の発達は
 (一) 微笑の原型、無対象場面における生理的な安静時の顔面表情
 (二) 社会的微笑反応、対象無差別的な微笑
 (三) 対象選択的な微笑、人みしり反応
 (一)の場合は前述のように生理的に安定したホメオスタンスの状態における新生児の顔の表情の微弱な動きは、それはあたかも後期の笑顔に連らなるような顔筋の動きですが、内部的安定感に関係し、対象的な刺激につながるものではありません。(二)の場合、微笑反応を喚起する外部刺激条件はスピッツその他が指摘しているように顔の正面形態であり、そこには笑顔のもつ特質、視線の結びつき、顔の全体的動きがふくまれている。したがってこのような条件を具備していれば誰でもよい。男女の性差も問いません。(三)の場合、六ヵ月から十二ヵ月までは、人間の顔に対して無差別にあらわれていた微笑が消え、見知らぬ対象に対してはいぶかしげな表情で見守るか、視線を避けるような不快や忌避の態度を示す反面、母親その他の見馴れた対象に対しては大きく微笑があらわれます。この「人みしり」反応のあらわれ方にはきわめて顕著な個人差、環境差がありました。すなわち家庭児と施設児とは微笑反応のあらわれが正に逆の現象を示し、家庭児の七七%が人みしり反応を示したのに対し施設児は二四%に過ぎず、家庭児における人みしり反応は六ヵ月以後一、ニカ月の間に認められた。施設児はその七六%までが九・五ヵ月まで対象無差別の微笑をつづけています。なかには十一ヵ月後半まで続いた者もあります。彼らの無差別的微笑反応の始期と終期は発達指数と無関係である。むしろ施設環境における人的接触の稀薄性と施設環境に内在する特殊性による環境因子に帰因すると言えます。

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