劣等感はどうしておこるか

 小、中学生の作文を分析して「劣等性意識」の原因として四三の要因を示しています。これを大別すると、貧困、父母の欠損、父母の職業的地位等の経済的要困、病弱、不具、顔立、身体的要因、赤面しやすい、内気等の性格、恥かしい行い、成績等の才能的要因となります。
 アドラーが劣等感の原因として最初器官劣等説を唱えたことはよく知られています。彼によれば不具、虚弱等の身体的欠陥は勿論ですが、表面に現われなくともすべての人はどこか弱い器官をもち、それが劣等感の原因になると云う。たしかに肢体不自由児などは、普通児と一緒の集団の中ではハンディキャップが大きくて劣等感をもち易い。しかし、同じ障害をもつ子どもの中では劣等感は感じません。また知的欠陥をもつ子どもは普通学級では「お客さん」であって、学習にも仲間集団にもついて行けぬため、劣等感のとりことなりますが、特殊学級に移してやれば、彼にもできるような課題を与えられ喜々としてとりくんでゆきます。多くの親はこの点が理解できなくて、特殊学級に入れるとレッテルを貼られて非行化するのではないか等と、理由のない心配をするのは何とも残念なことです。

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 こうして見ると結局、生まれつきの欠陥がそのまま劣等感を生むのでなく、それに対する周囲の取扱いが重要だということが分かります。差別されたグループの劣等感はその典型でしょう。有色人種であること、部落民と云われる出身であること、犯罪者を親にもつことなどは、本来何ら当人の劣性を示ものではないのに、いわれない社会の偏見が、これらの人びとを幼時から差別するため、当人の中に「自分は普通の人と同じでない」という劣等感を植えつけてしまいます。
 これと一寸異なりますが、やはり環境的な原因として、家庭における扱い方の問題があります。アドラーも後年器官劣等よりもむしろこの方を重視して親の子に対する扱い方、同胞関係などがいかに劣等感を生み、問題児を作るかに多くの紙面を費している。親に拒否された子ども、可愛がられない子、同胞の間でひとり無視され存在を認められない子どもは劣等感をもちやすい。支配的な親は力で子どもを屈服させ、子どもに自身の無力さをいやという程思い知らさせます。子どもをからかったり笑い者にする態度も劣等感を生みます。反対に甘やかされた子どもは家庭の中だけで生活している間はむしろいばっていますが、集団に入った時、親から独立できていないため仲間について行けなかったり、わがままのため除け者にされたりします。これも劣等感の原因となります。また親の要求が高すぎると子どもはいくら努力しても親に満足してもらえない。親の期待に沿い得ないのは自分が悪いからだと子どもは思い込み、やはり劣等感をもつ。最初にあげた母親の子どもも、その意味では劣等感を本当にもつかもしれません。つまり、音楽が不得手だからではなく、不得意課目が一つでもあってはいけないという親の期待に沿い得ないためにです。
 年齢の近い同胞(殊に同性の)といつも比較されていると、能力的に低い方は劣等感をもちやすい。普通の知能を特っていても、同胞が優等生だと、その家庭では劣等生の如き取扱いを受け、深刻な劣等感の犠牲になることがよくあります。
 貧困はまた劣等感の原因になりやすいが、この両者の間にはいろいろと複雑な要素が入り込んでいます。貧困で服装などがみすぼらしいといった事ではなく、母の死亡、父の無能力から充分な世話を受けていないこと、知識や経験の乏しさから社会性も育たず、知的能力も開発されないため学習について行けないことなど、家庭、性格、学校のいろいろな問題とからまり合っているからです。
 生まれつきの劣等感という考え方もないわけではありません。神経質という生まれつきの性質を考え、劣等感もその一つの現われと見ている。また、劣等感の中には生まれつきの気質としての「劣等気分」というものがあるとされています。たしかに生まれつき内気とか敏感(殊に対人関係において)な性格というのは存在するし、そのような人は劣等感をもちやすいと云えるが、劣等感そのものを生まれつきと考えるべきかどうか、生まれつきの気質の上に、何らかのひけ目や幼時の環境が加わって劣等感を生じたと考える方がよいか、議論の余地がありそうです。
 学業成績もたしかに劣等感の原因になりますが、それは世の母親たちが考える程子どもにとって大問題でないようにも見えます。全く学習について行けぬ子、いわゆる劣等生は大部分劣等感をもっていますが、彼等はまた友人からも見放されていることも考える必要があります。それ以外の子どもは、たとえ「出来ない方」ではあっても友人間に建国とした地位をもっていさえすれば劣等感に打ちひしがれることはありません。成績が劣等感の原因となるのは、殆んどの場合周囲(親)がそれを大きくとりあげ、恰かも人間の価値がそれにかかっているかのように扱うからです。

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