劣等感の克服

 劣等感克服の方法としてよく云われるのは補償的努力を建設的方向に向けることですが、子どもにこのような注文を出して努力せよと云っても無駄であり、周囲がそのように間接的にもって行くしか方法がありません。
 子どもに劣等感を克服させる方法、それは第一に今までの誤った自己のイメージをくずすことです。それには成功の体験を与え、そしてほめることが手っ取り早い。勿論見えすいたおだてはすぐ見破られるから実質を伴ったほめ方でなければなりません。

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 それと並んで大切なのは、仲間の間での承認を得させること、これは学童期では殆んど担任教師の努力にかかっていると云えよう。学級内で中位の地位にある子どもを委員に任命して一年後に調査してみると社会的地位がずっと上昇し、当人の自尊感情は高まり(劣等感の解消)退行的傾向は滅少している(劣等感反応の消滅)。
 現場の先生たちがよく試みる方法ですが、当人がその任務を遂行できない時は逆の結果になるからその点の見極めが肝腎でしょう。
 学童期の劣等感の解消は殆んどこの二点につぎると思われますが、問題を厄介にするのは多くの子どもの劣等感はそれ以前の発達上の問題を持ちこして来ているという事実です。だからそれ以前の問題を解決してやらないと学校だけで問題は解決しません。次にA君のケースでそれがどう解決されていったかを見ながら結論としたい。
 A君は奇跡的に立直った。その主な原動力は化またま産休講師として、三ケ月間だけ校を受持った臨時の先生の努力でした。元ベテラン教師だった彼女は交替するや否や、良男の問題を放っておいて学級の進歩も教育効果もないと見てとり、この解決にのり出しました。まず良男を仲間集団に引き入れる努力として、適当な子どもを選んで彼とあそぶように指導しました。また、けんかが起ればすべてA君が悪いと決めつけたがる子どもたちに、けんか両成敗を申し渡しました。そんな事は彼にできっこないと云う子どもたちの反対を押し切ってA君に責任のある役割をもたせました。一時は大混乱が起り、他見の母親が不満を訴えてPTAで問題になり、教頭からも無駄な努力だと決めつけられましたが、彼女は一人一人話し合いで、協力を頼みました。母親たちの中に理解者が現われ、徐々にこの努力も効を奏して来ました。
 一方、母親の方はその少し前から相談機関のカウソセラーとつっこんだ話し合いを行ない、A君を受け入れる努力を始めたところでした。
 宿題を強要せず、帰ったらすぐあそびに行かせる、体罰は絶対加えない、小さなことでも何かみつけてほめてやる等のことを母親がかなり努力して続けてみました。両者のタイミングがうまく合致して一ヵ月程たつとA君の道草はピタリとやんだ。学級での仕事も責任をもって果たし、皆からもある程度見直されて来ました。同時に学習意欲も出て来て、テストにもたまに七〇点、八〇点がとれるようになって来ました。四年間に培われた学級の彼に対する偏見は根深く、たまに彼が叱られると級友が喜ぶ傾向がまだ残っているのは担任をおどろかせましたが、それも徐々に解消してA君はもうすっかり学級の一員になっています。
 それと同時に「良い子」になった良男に対して母親の感情もずっと安定し、すっかり受け入れてやれるようになりました。A君は今や家庭でも学校でも受け入れられていると感じ、初めて自分を受け 入れるようになったのです。

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