子供が連れ去られた場合、引渡請求権を行使する

子どもをめぐる法律問題のうち、多いものの一つに、子どもの引渡しをめぐる事件があります。たとえば、離婚したために親権者でなくなった母親が、子どもの学校の帰りを待ちぶせ、連れていってしまったとか、あるいは母が養育している子を父が暴力的に連れていったとかいう例は、裁判にもよくあらわれます。
 民法上、親権者は、子どもの監護、教育をする権利を有していると共にその義務を負っており、親権者でない第三者が設権者の監護、教育を妨害し、とくに子どもに不利益や危害を加えるおそれがあるときには、親権者はその妨害を取り除き、子の安全を図ることができるし、また図らなければならない義務があるわけです。
 これが子どもの引渡請求権といわれるもので、親権者に認められています。直接、この引渡請求権を規定した条文はないのですが、親権の内容の一つとして、判例でも、学者の間でも広く認められている権利です。

スポンサーリンク

ただし、親権に基づく子どもの引渡請求がどんな場合にでも認められるかというと、必ずしもそうではありません。親権の行使は、子の利益ないし福祉のために行使されなければならず、子の福祉を無視して引渡請求をすることは、親権の濫用となり許されません。
 大事なことは、引渡請求と子どもの意思との関係です。乳児や幼児の場合はその場かぎりの感情で物を言うので問題にはなりませんが、一定の年齢に達し、自分の利益を考えて判断でき、行動できる場合、その自由意思を尊重することが、子どもの利益や福祉を守ることになります。
 ですから、子どもが自分の自由意思で、連れ去られた第三者のもとにいる場合には、親権行使の妨害にはなりませんから、子の引渡請求権は成立しません。この場合には、民法八二一条で定める居所指定権を行使します。すなわち「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない」と規定されていますから、子は親権者の居所指定に従う義務があるわけです。子が従わなければ、親権者は居所指定に応ぜよという訴えを起こせるわけですが、実際上は、勝訴しても履行を強制する方法がなく、間接強制も許さないというのが学説です。
 「内縁の夫婦A・Bは、未成年者Cを養女としたか、A・Bの別居により、CはA・B間を転々とさせられていた。それを見かねたBは、同情からCを手もとに引き取り六歳頃から一七歳になるまで育てた。ところが戸籍上は、CはAの養女となっているのにつけ込み、AはCを芸者に売ろうと企み、Bに対して、親権行使の妨害排除の手段として、Cの引渡請求をした」という事件がありました。
 大審院は、子が自分の自由意思により第三者(この事件ではB)のもとに留るときは、第三者の親権妨害ありとして子の引渡しを請求できないと判決しています。
 では、子どもか何歳くらいになれば意思能力を持つか、ですが、判例の傾向をみると一〇歳から一五歳くらいが判断の分かれ目で、その子どもの能力によって違ってきます。
 実際問題として子どもに意思能力のない場合、親権者は子どもを拘束している第三者と直接折衝をし、多くの場合は解決されるでしょうか、それかできない場合には、家庭裁判所へ、子の引渡請求についての審判または調停を申し立てることになります。
 調停が成立すればよいのですが、調停ができない場合には、審判または訴訟によることになります。
 問題となるのは、調停や審判や判決によって子どもを引き渡すことか決まったのに、相手方がこれに従わない場合どうするかです。
 この場合には、実力で子どもを親権者のもとへ引き渡す手続き、すなわち強制執行が行なわれるわけですが、強制執行を担当する執行官が、子どもを相手方から取り上げて親権者に引き渡す(直接強制)方法が許されるのか、あるいは、判決の日より子の引渡しを終えるまで一日一〇〇〇円の割合による金を払えというように、心理的に強制を与えて引渡しを促す間接強制しか許されないのか、という問題について、判例でも統一した見解は出ていません。
 というのは、直接強制というのは、幼児を物と同じに扱うもので人権尊重の見地から好ましくないという考えがあるからです。従来、判例は間接強制しか認めませんでしたが、下級審の判決の中には直接強制を認めるものも出されています。
 では、裁判所の力によらず、自分の力で幼児を連れてくる(自力救済)が許されるかどうかです。
 法律によらないで、自分の力で権利を実現する自力救済は、原則として認められません。しかし、幼児の引渡請求の場合には、子どもに乱暴をする第三者のもとに子どもをおくよりも、方法は自力救済という違法性の問題となる手段であっても、結果として、現在の子どもの幸福という観点から好ましい場合には、これを認め、相手方からの子どもの返還請求を認めない方がよい場合もあります。

親が子供を養育する場合、育てていく義務がある/ 教育を受けさせる場合/ 養育するのが困難な場合/ 子供が連れ去られた場合、引渡請求権を行使する/ 養子をむかえる場合/ 子どもが生まれた場合/ 胎児と子どもの権利/ 結婚前に生まれた場合/ 結婚外で生まれた場合/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク