創造性の諸要素

通常、私たちが何かをやるための動力は利得が第一だと考えられています。例えば、自由主義経済は、人間は放っておいても自分の利益になることなら最大の熱意をもって仕事にあたるから、結局、自由放任と競争の原理が最大限の生産を確保することができる、という考えに基づいています。心理学でも、従来の動機づけに関する理論は、まったく同じ考え方の線に立っていました。
ところで、このような功利主義的あるいは快楽主義的な動機づけ理論では、創造過程の秘密は、どうもうまく説明することができません。創造者は、何ヵ月も何年も、一見無益な努力をつづける、と述べてきました。むろん、必ず成功するという見込みが始めからあるのなら、この努力も不思議ではありません。大きな苦痛の代償として、大きな報酬が約束されているからです。しかし、現実には、必ず報いられるという保証は、どの場合にもありはしなかったのです。事実、いま一歩のところまでいきながらついに失敗に終わった発明、発見の事例は、たくさん指摘されています。
すると、何か、彼らをして、この苦痛に耐えさせるのでしょうか。たしかに、功利主義的あるいは快楽主義的な動機づけ理論の含む真理を否定することはできませんが、しかし、どうやら、その真理はすべてではないようです。
この場合、創造者は、報酬や利得は度外視して、ただ彼らの問題を解くことに、ひたすら純粋な喜びを感じているようにみえるのです。よく考えてみれば、私たち平凡な人間の目常生活にも、このような原動力の働いている例があるかもしれません。例えば、ピアノの練習はどうでしょうか。毎日毎日の練習は、それだけなら利得よりもむしろ苦しみのはずです。記録を〇・一秒縮めようとして精いっぱいの努力を払うランナーの場合だって同じでしょう。すると、このような純粋な動機づけ解決のための喜び、向上への努力がどこからでてくるのかは、単に創造性のみならず、おおげさにいえば、人類の向上にとってたいへん大きな課題といわねばなりません。また、この原動力をどうやって子供のなかに育てることができるのかは、教育上の最大問題の一つであるはずです。

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幸いなことに子供は大人とはちがって、それほど利得によって左右されているようにはみえません。小さい子供であればあるほど、彼らの活動はすべて多少とも遊びの要素を帯びています。いいかえると、彼らは活動それ自体を楽しんでいるのです。この時期に、適切な方法さえあれば、純粋な動機を育てあげることができるかもしれません。これは、私たちに一つの希望を抱かせるのです。
次に、剖造活動のなかには、知的な要素以外には何も含まれていないのでしょうか。これについても、一つの疑問が提出されます。創造者は、解決は天啓のように現われ、即座にその正しさが確信されるとのべています。論理的証明がまだ行なわれていないとすれば、何、が正しさを確信させるのでしょうか。
意外なことに、多くの創造者によれば、それは美しさへの感受性なのだそうです。例えば、ポアンカレは、次のようにいっています。
「一見、数学の証明は、知性以外には関係がないように思われるのに、これについて感受性を引合いにだしては、人は、あるいはおどろくかも知れない。しかし、我々の心に一種の審美的感情を起こさしめる力をもつごとき数学的事物とは、調和的に配置された要素から成り、我々の精神が細目に徹しつつ全休を包容するのに何らの努力をも要しないような事物のことである。」
ここで、私たちはまた、古来からの「知・情・意」という分け方がどんなに不十分であるかに、再び気づかされるのです。この考えは、すでにのべたように、元来はヨーロッパ思想の伝統に根ざしているのですが、いつのまにか私たちのだかにも深く浸みとおってしまいました。そのため、知能と情操とは別ものと信じられ、高いIQさえあれば後はかまわないという間違った考えが流行し、知能テストの練習をしたり学校教育の先回りをしたりするのが就学前の知的数育だという迷信もまた浸みとおってしまったのです。
しかし、創造性という最高次の知的活動においては、知性と情意性とは明らかに別ものではありません。日常生活のなかではこの両者がふつうは分離されているからといって、原則的にもそうだなどと思いこんでは困ります。とくに、発達途上にある幼児を考えるとき、この問題は何度強調してもしすぎることはありません。
感受性の重要さは、何もインスピレーションの段階にだけ表われるのではありません。創造過程とは、ふつうの人は問題が潜んでいるとも思わないようなところに、何とはない不満足を感じ、それを解こうとするところから始まります。アインシュタインは、「問題をみつけることは、それを解くよりももっと本質的だ」と指摘していますが、聞くべきことばでしょう。そうして、問題をみつける力は、集中的思考を旨とする知能テストでは、まったく測りえないものです。

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