未知なものへの関心

従来の心理学では、人間は面白いこと、快いことをやろうとし、骨の折れること、辛いこと、苦しいことは避けようとすると考えられてきました。一見苦しいことを目指して努力するようにみえる場合も、本当はそれによって得られる報酬を期待しているからだと説明します。
日本語の勉強は強いて勉めると読めます。楽しいこと、快いこと、自発的に求められることとはみなされていないのです。私たちは、よく、遊びと勉強とを区別します。遊びは楽しいことだが、勉強は苦痛だと暗に考えているからです。このような二分法そのものが、すでに大きな誤りだと思うのですが、一般に広く浸透していることはとうてい否定できません。
その嫌な勉強をなぜするのかといえば、一時の苦痛を忍んでも終局的に得られる利得がそれより大きくなることを期待しているからだという答が返ってきます。良い成績をとれば賞められる、良い学校に入れば尊敬される、良い地位につければ一生安楽である。
しかし、私たちは、創造過程のところで、発明、発見者はそんなことを期待して課題にとりくんでいるのではないことを学んだはずです。また、日常、私たちが様々なことに熱中するのは、必ずしも利得を期待してのことではなく、ある場合にはそのこと自体の喜びや楽しさのためであることは、誰しも体験するでしょう。従来の功利主義的動機理論は、一面の真実はついているにしても、明らかに万能ではありません。この点を検証しだのが、ヘッブの実験です。

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この種の実験は、よく感覚遮断実験と呼ばれています。被験者は、文字どおり、一切の感覚的刺激を与えられないようになっています。防音室に閉じこめられるので音も聞こえません。室は一面に白く塗ってあるので、きわめて変化に乏しくなっています。そのうえ、目には蔽いをし、耳には栓をつめ、両手に筒をはめ、食事も味の少ない幼児食をチューブから与えます。
この実験室の温度や湿度はいちばん快適な状態に調節されています。また、被験者には高い報酬が支払われます。
旧来の理論にそって考えると、一切苦しい努力は要求されていませんし、また、将来の果実も約束されているのですから、被験者はすこぶる満足し、何日でも実験をやり通すはずです。ところが、実際には、多くの人が三日とは我慢できなかったのです。一日中、何の刺激もないというのは、実は途方もない苦痛なのでした。
最後には、被験者の頭の働きそのものがおかしくなってきます。注意は集中せず、簡単な課題にもデタラメな答えを出し、人の言葉を簡単に信じこみ、誤答を与えられても疑おうともしません。新しいことを学習するのは、極端に遅くなります。
さらに注意すべきは、そのあいだに、夢とも幻覚ともつかないものが生ずることです。終り頃には、覚めていながら、夢をみるようにある情景をみます。そしてまた、それが楽しみとなってきます。
以上から、人間の精神生活にとって、外界からの適度な刺激や情報が必要不可欠であることが知られるでしょう。それは、なかなかな生理的満足よりは、もっと重要な場合があるのです。
同時に、慣れきった情報とか一定不変の動かない環境とかは、情報としての価値が少ないことも理解できます。いいかえると、人問は、いつでも未知な新奇な何かを求める存在なのです。知的な探索欲求は、高等哺乳類にとってかなり本質的なものであり、人間においては特にそうだということになるでしょう。
では、最も求められる情報のタイプとは何か。これについては、ヘッブその他の人々によって、おお行ね次のように考えられています。
一ロにいって、よく見ななれた安定した状況からあまりにもかけ離れた刺激は、不安や恐怖の対象となります。予期しないものが不意に現われると、誰しもびっくりします。牛肉の切身は何ともないが、道に倒れた負傷者の流す血はぞっとするほど恐ろしいなどは、みなこのように解釈されます。
これに対し、見なれた対象から少しかけ離れた刺激は、好奇心や探索の欲求をそそると考えられています。これは、様々な実験事実から結論されるのですが、日常事態でも、例えば恐いもの見たさなどというのがこれにあると思います。
もし以上のようだとすれば、ふつう遺伝で出来上がるとか条件不明とか考えられているような事柄も、実は、環境条件の影響を大きく受けている場合のあることが知られます。
音楽家の家系から音楽家がでやすいのは、ふつう、音楽的才能が遺伝するためと思われています。医師の子供が医師になるのは、お金がもうかるからと考えられています。はたしてそうでしょうか。
これらの場合、いずれも環境効果が大きいように思います。音楽家の家庭では、豊富な高い音楽的環境がはじめから子供に与えられています。これに慣れた子供は、自然にもう一段階上の音楽を求めていくことになるでしょう。こうして、音楽への関心という一定方向への探索欲求がいつしか子供のなかに芽生えていくと考えられるのです。

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