トーキング・タイプライター

自発的な関心あるいは知的な探索欲求の自己拡大、こういうものが幼児教育にあっては特に重要であることを強調すると、旧来の教育方式になれてきた人々から、あるいは次のような反論があるかもしれません。興味や関心が大切なことはよくわかる。しかし、これらはあくまで自発的なものだから教育の対象にはなるまい。押しつけといわれようと何だろうと、教育できるのは知識や技能だけである、と。
この反論は、ある年齢以上では正しいかもしれません。しかし、幼児教育では子供、まだ功利的動機に浸りきっているわけではないし、新鮮な好奇心に満ちあふれているのです。いまのべてきた好奇心や知的探索欲求の発生するメカニズムを十分理解したならば、この方式で、特定方向への自発的関心を善い育てることができるかもしれません。もっと意図的、計画的に内発的動機づけを使ってみたらどうなるでしょうか。
そのような実例が、いくつかあります。一つは、アメリカの教育心理学者ムーアによるトーキング・タイプライターの実験です。

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トーキンダ・タイプライターとは、読んで宇のごとくおしゃべりするクイプライターです。子供がAならAのキーを打つと、Aという字が打たれて目に見えるだけではなく、「エイ」という発音も聞こえてくる、という仕組みです。
この実験は、二歳くらいの年齢から始めること、ができます。ただし、一日の実験時間は三〇分以内とし、その間、子供は自由に実験室のなかを歩き回り、トーキング・タイプライターを使うことができます。また、機械のほかに何人かの先生がいて、子供に質問や疑問があれば、いつでも答えてくれるようになっています。
二歳くらいの子供にとっては、ほとんどあらゆる事物は探索の対象となるものであり、トーキング・タイプライターも例外ではありません。というより、この装置は、子供の働きかけに対して生き物のように反応してくれるし、かなり複雑なルールを含んでいるので、いちばん面白い玩具となります。こうして、子供はしらずしらず文字の世界に親しみだすのです。
内発的動機づけの原理によると、文字はいまや子供にとって見なれた刺激、環境条件の一部となったわけです。当然、子供は次の段階への好奇心あるいは関心をもち始めます。
ここで、機械にしくまれたプログラムは一歩高次な方向に進みます。たとえば、字の種類を増やす、次は、単語を打つ、すると、その語の発音が聞こえ、同時に、その言葉を示す対象が絵としてでてくる、といったぐあいです。
こういうふうに、一歩一歩子供の興味は高められ、自然に文字、発音、意味などの一体となった言葉の世界に子供は導入されていくのです。トーキング・タイプライターの主要な部分は、装置ではなくて、装置に仕組まれた教育プログラムの適切さにあるわけです。
こうして、十分に文章を続行ことを理解した子供は、それだけにはあきたらず自分で文章を書くようになります。ムーアの例では、六歳の女の子が、かなり巧みな詩を創るようにすらなりました。人間の知性にとってきわめて重要な言語の教育が知らず知らず行なわれるのです。おおまかな結果によると、大体五歳くらいで、小学校二年程度の読み書き能力が身につくそうです。
ここで忘れてならないのは、この方式が、アメリカ下層階級の、家庭教育のゆきとどかなかった子供たちを救うのに、大きな力があったという点です。いままで、小学校に入ってからお荷物であった子供たちが、この方式で訓練を受けてからは、入学後もずっと順調に成長するようになったといわれています。

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