言語発達と知的発達

言葉と思考、言葉と認識のあいだには密接な関係があるらしいことは、古くから気づかれていました。例えばイギリスのことわざに、「自分の考えていることをうまく言い表わすことができたとき、自分が何を考えていたかが始めてはっきりわかる」という意味のものがあります。これは、言葉が思考に明確な形を与えるための本質的な用具であることを、実に巧妙に指摘しています。もしそうであるなら、言語と知的発達のあいだにも、深いつながりがなければなりません。
これを鮮やかに示しだのは、ロシアの心理学者ルリアらの研究です。そのきっかけとなったのは、言語遅滞と知的停滞とを合わせ持った一卵性双生児の発見でした。

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この子供らは、双生児同士以外の友達や兄弟がまったくいないという珍しい状況のもとで育ちました。そのうえ家系には軽い言語障害の遺伝がありました。それらが重なりあって、彼らは、自分たちのあいだ以外にはまったく通用しない奇妙な言葉を使うようになったのです。例えば、ふつうの言葉の発音がひどく崩れているものとか、彼らだけに通じる擬音語、自動車をツウツウというなどが、彼らの言葉でした。
発見されたとき、すでに五歳にもなっていたのですが、使うことばの九〇%までが意味不明といった有様でした。身振り、指示、いろいろな背景状況などと考えあわせて推測するほかはありません。また、言葉の形も、一語文かせいぜい二語文までで、しっかりした文章になっていませんでした。
発語もそんな具合であれば、理解も遅れています。大人が指示したものをとることはできるのですが、それは純粋な言語理解にもとづくものではありません。大人が視線を向けているものを選んだり、「よろしい」といわれるまで、手あたりしだいにとるだけです。つまり、ここでも、状況の手がかりや身振りなどの補助に頼っているわけです。
単語の場合がそんな程度ですから、もう少し複雑な文章になるとまったく理解できません。「ボール」「探す」という二つの単語は一応わかっていますが、「ボールを探して持ってきなさい」という命令はまったく理解されません。これを、「ボールを探せ」「ボールを持ってこい」というように分解すると、やっとたんとか通じます。さらに、言語活動そのものが極端に少なく、三〇分間にたかだか二〜三語がみられる程度でした。
言語発達もその程度ですから、知的水準も遅れを起こしていました。彼らの遊びは単調かつ原始的であり、積木で構成遊びをするというごく単純な活動すら認められません。まして、ごっこ遊びのような初歩的な象徴遊びや絵をかくなどの表現活動は、薬にしたくもみられません。やるのは、追いかけっこ、二人でつながって走る程度です。
ルリアは、言語は、もともとは社会的交渉の用具、コミュニケーションの手段として発生するものだと考えます。この双生児兄弟の言葉が遅れているのは、彼らが緊密な二人だけの世界、双生児状況のなかに閉じこめられ、他人との社会的交渉の場が与えられていないからです。もともと、軽度の言語障害の負目があったところに、このような環境条件がそれを一層加重したのです。対策としては、当然、まず双生児状況を除去して、通常の社会的環境のなかにくり入れることを考えねばなりません。
そこで、兄弟か二人ずつに分離し、幼椎園にかよわせて、年齢なみの児童集団のなかに入れました。兄弟は、いやおうなしに、他の子供や先生との社会的交渉を行なわざるをえません。このとき、幸いなことに、格別な不適応の兆候はみられませんでした。初めは、兄弟がいないため不安げであり、他の子供とろくに接触しようとしませんでしたが、しだいに新しい環境になじむようになり、集団 活動に参加し、仲間との会話を始めるようになりました。
三ヵ月目には、早くも顕著な改善がみられました。奇妙な言葉、補助的手がかりがないと理解できない言葉は大幅に減り、最初の九〇%から五〇%に下がりました。さらに、もっと表現力の高い言葉、例えば、「次には何々をしようよ」といった、まだ現前していない状態を示す言葉とか、昨日の出来事を説明する言葉とかが、使われ始めました。
一〇ヵ月後には、原始的なことばは約三〇%まで減りました。言語能力は、ほぼふつうの水準に追いついたのです。それに伴って、彼らの知的過程も大幅に改善されました。例えば、三ヵ月目には、いままでみられなかった、ごっこ遊びが現われました。この種の遊びには、ことばによるシンボリズム(象徴化)という働きが必要です。双生児は、「地下鉄の中だよ、暗いよ」などといいながら地下鉄ごっこをするのです。ここでは、言葉がある架空の状況を作り出し、子供は言葉に反応して遊んでいることがわかるでしょう。言葉は、このように現実の状況の制約から子供を解放し、もっと広い世界に導きます。同時に、言葉による行動プランの設定とこれに伴う行動の調節が行なわれるようになったわけです。こうして、それまで欠けていた「絵をかく」「粘土細工」などの構成的遊びも、いつしか現われるようになりました。一〇ヵ月目には、双生児の知的水準もふつう児なみの段階にまったく追いついたといいます。言語は知的機能と深いかかわりをもつことが知られます。

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