言語と認識

おとぎ話を通じて、子供は、知らず知らず、言葉の持つ不思議な力に目を開かれていき、その魅力を感じとることができます。子供が、よく知っているはずの童話を何度もくり返してせがむというのは、言語に魅惑された気持の一つの表われなのでしょう。こうして、言語は「特別な認識の対象」にと育っていくのです。
そればかりではありません。おとぎ話を通じて、子供は知らない単語や言葉の使い方まで、いつのまにか習得していきます。例えば、「こわい、こわい赤鬼が」と聞けば、鬼がどんなものかを知らなくとも、その性質の少なくとも一部は理解されるわけです。あるいは、未知の表現に対して、「それは何」と聞き返すなら、新しい知識がすぐに手に入るでしょう。子供の旺盛な好奇心は、ときに煩わしくなるほどですが、しかし、そのときもできるだけ丁寧に答えてやるという心構えは、とても大切なことなのです。

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子供の言語表現は、大人の目からみると未熟で未完成の形をとるのがふつうですが、このとき、無理矢理大人並みの整った形に直してやるよりは、不完全さに気づかせるような問いかけをしたり、子供の言いたいことを察してさらにそれを拡張するような言葉使いをしてやるほうが、言語教育としてはより有効だといいます。例えば、「ころんで泣いちゃった」と子供が言ったとき、ただ「○○ちゃんがころんで、痛くて泣いたの」といわなければ駄目でしょ うと指示するよりは、「そう、誰が泣いたの」「どうして泣いたの」と問い返したり、「ころぶと痛いから、それで泣いたんでしょうね」と言ってやったりするほうが、言語表現力の自発的な拡張といううえでは優るようです。おとぎ話は、このような機会をふんだんに提供していることを忘れてはなりません。
ですから、おとぎ話は、子供の知的発達に大きな効果をもっています。やはり、アメリカでの実験ですが、スラム街の子供に大学生の担当者をつけて、一週に一回ずつ童話を読んでやったところが、その子たちは童話を聞かされなかった対照群の子供たちに比べてIQがずっと上昇したという報告がみられます。言語のもつ大きな力をみすごしてはいけないという一つの証左でしょう。
では、なぜ、言語はそんな大きな力をもっているのでしょうか。これは、現代心理学の一つの中心課題であり、この小論で論じつくすことはでぎませんが、その理論的基礎について、二〜三の知見をのべておく必要があるでしょう。
まず、言葉には、私たちの物の見かたや考えかたなどをしらずしらず形づくっていくという働きがあります。しかも、この機能は、きわめて旱い時期から認められるのです。
例えば、ロシアの心理学者からの実験に、生後満一歳代から二歳半まての幼い子供たちに赤と緑の箱の区別をさせた研究があります。方法はきわめて単純で、赤なら赤の箱にお菓子を入れておいて、うまくあたればそれをもらえるという仕組みです。このとき、もちろん、赤の箱が右にあるか左にあるかけでたらめにして、位置が、手がかりにならないようにします。
何も言語的指示を行なわないで、赤と緑の弁別を学習させると、一〜二歳の幼児には、こんな単純な課題すらきわめて困難です。長いことかかって、やっと赤い箱を見分けられるようになるのですが、それで安心していると、次の日にはもう区別はつかなくなり、またしても新しくやり直すというぐあいです。
ところで、このときそれぞれの箱に赤と緑という名前をつけてやると、まったく事情が変わってきます。子供は、名前をつけないときに比べると二倍半も速く、両者の弁別を学習します。しかも、この学習は、まえの場合のように不安定ではありません。一週間くらいしてからも、区別は、まだちゃんと維持されています。そればかりではありません。赤と緑の弁別は箱だけでなく、コップとか円筒形をみわけるのにも拡張適用されました。子供は、このとき自発的に名前をつけ区別してから、学習にとりかかるのです。言葉は、こんなに早い年代から、外界の認知の安定と一般化をもたらすことが知られるでしょう。

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