数概念の発達

幼児期の知的発達にあって、言語と並んでみのがしえないものに、もう一つ数の問題があります。幼児の教教育につきまとう典型的な誤解の一つは、言語教育の場合と同様に、現行の小学校教育をモデルとし、いたずらに先回りをしようとする考え方です。言語教育といえばすぐ読み書きを連想するのと同様に、教教育イコール加減乗除などの計算能力の養成と考える人が多いのではないでしょうか。
文字教育に熱中するあまり、目立たないけれどももっと重要な他の側面がみおとされては困ります。
例えば、言語の精妙かつ独特壮夫現役能を理解し、言語を特別な対象として扱う態度とかの言語が思考や認識を定式化し形成するうえで本質的な役割をもつことへの注目などは、幼児期の言語教育においても最も重要な課題をなしています。数教育でも事情は同じです。加減乗除やそろばんに熱中するまえに、考えてみなければならない課題があるのです。

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近年までの発達心理学も、始めに指摘したような誤りを追いつづけてきました。その一例は、ゲゼルの行なったような教概念の発達過程の研究にみられます。
ゲゼルとその弟子イルグは、数概念の発達標準を定めようとして、多くの子供の自然観察を行ない、その平均的な発達の様相を忠実に記述しています。例えば、二歳台では一個とそれ以上を区別し、二歳半になると、教示に応じて一つだけ積木をとり、棒暗記的に教をいい、三歳では、二個の計数ができ、五までの教唱が可能で、四歳では、三つの事物なら正しく計数でき、一〇までの教唱が家庭では可能となり、四歳半になると、一つつ、ニつ、三つだけ事物をとることがそれぞれ可能となり、四つまで正しく計数でき、いくつという質問に答えられて、五歳では、平均して一三、三分の一以上は三〇まで数えられる。計数は一三まで可能。一から四くらいまで数字がかける。答が五以内の加算のできる者がいる。減算も、答が五以内なら可能壮者がいると言う具合です。
むろん、以上は、平均としての発達の様相ですから、これより優れた子供も劣った子供もいるわけです。しかし、それにしても、ゲゼルのあげている標準は、かなり低いと感じる人が多いのではないでしょうか。この数値は、かなり前のものですが、その後の社会的、文化的状況の変化は、子供の世界にもやはり大きな影響を 及ぼしているようです。日本でも諸外国でも、ここ数十年ほどのあいだに、数や言語の発達標準は、しだいに水準が高くなっていく傾向が目立ちます。このことは、現象的な発達の標準があまり役に立たないことを教えます。また、三歳ならこのくらいがふつうだとか、これは五歳にならないとできないとかいう言い方は、ごくごく大雑把なものにすぎないことを心えておくべきでしょう。
以上の記述は、ゲゼルらの考えるような数概念が、数を唱える、事物を数える、集合の数を知る、具体物での足し算や引き算、数字の読み書き等の内容から成ることを明らかにしています。これは一例にすぎませんが、ほとんどの発達心理学者は、このような小学校の算数教育の後を追うことをもって、数概念の発達と考えてきたのでした。
一口に「読み・書き・そろばん」といわれるように、こういう算数的技能への習熟が大切なことは論をまちませんが、しかし、それだけでよいのでしょうか。一昔前の大人が受けた算数数育だけが唯一の算数教育のあり方だ、こういう固定観念がどこかに潜んでいるのではないでしょうか。そのあいだにも、しかし、世の中はどんどん進歩します。旱い話が、コンピューターは私たちの身のまわりにまで浸透し、ボタンを押しさえすればすぐに複雑な計算の答すらだしてくれるようになりました。当然、算数教育の目標についての考え方も変わらざるをえません。単なる計算技能の習練だけが算数ではないのです。
ですから、小学校の低学年から、集合などという背は耳價れなかったことばが登場し、とても算数はみてやれないと嘆くお母さんたちが増えています。実際は、集合といっても、同種の仲間同士の集まりとか系列という程度のことを教えているだけなのです。格別難しいことではありませんが、しかし、算数教育の根本思想が急速に変化しつつあることだけは、はっきり認識しておくべきでしょう。
それに伴って、もちろん、幼児における数の発達的研究とか数教育とかの目標や考え方も、大幅に変わらざるをえません。既成の先入見を捨てて、数とはいったい何か、数の認識を育てることによって何を期待するのか、そのためにはどうしたらよいか、これらの根本問題から考え直さざるをえないのです。

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