家庭における言葉の指導

幼児の思考の発達に関わっている言語の獲得とその習熟は、もとより、幼児自身の力だけにもとづいて行なわれているわけではありません。日常の生活の中で、幼児の活動を促し組織し肋ける親やその他のまわりの大人の働きかけ、指導があってはじめて、幼児は、ごく短い期間に、きわめて高度な言語諸能力を獲得することができるのです。けれども、幼児が言葉を覚えていく過程は、子供を持つ親にとってあまりにも日常的であるため、その際に親が果たしている役割、その指導がいかに重要であるかが、あまり意識されていません。しかし、この問題をあつかった最近の諸研究によって、幼児の言葉の習得にとって親の指導がきわめて重要な意味を持ち、この時期の親や大人の指導や教育がその方法や内容の面で貪弱なとき、子供の言語発達に著しい遅滞が生じ、ある場合には、知的能力の全体の発達が遅滞し、就学以降の学習に著しい障害が生じることが、明らかにされています。

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具体的にどういう場合にこのようなことが生じるのでしょうか。いくつかの場合に分けて述べてみましょう。
親や大人と幼児の日常の交際、接触が全体的に不足している場合。子供が言葉を収得するにあたって、大人は日々の共同生活、交際の中で、幼児にコミュニケーションの欲求をひきおこさせたり、言語見本を示して発声、発語を促したり、誤まった或いは不十分な表現を訂正させたりする役割を果たしているわけですが、なんらかの理由で、子供がおとなと接触する機会が全体的に不足した場合、子供の言語活動を促す様々な刺激の絶対量が不足し、子供に全体的な発達の遅れを伴った著しい言語発達遅滞が生じます。家庭においても稀にこういう場合がみられますが、もっともこういう場合が生じやすいのは、大人の世話が不足しがちな、病院やその他の施設で養育される子供の場合です。特に、それは、大人にすべてを依存している乳幼時期を施設で生活する場合に顕著で、その子供の半数以上に言語遅滞と障害が認められるといわれています。
大人または他人との社会的交際、接触は十分あるが、その交際の中で、言語的コミュニケーションを必要とする客観的条件がつくり出されない場合。幼児が言葉を覚えるためには、言葉の学習はすべて使用の中にその発展があるため、はじめは、きわめて初歩的なものであるにせよ、とにかく言葉をつかい、自分の欲求や主張を大人に伝えることを学ばなければなりませんし、また、その活動を盛んにしていかなければならないのです。そのために、親や大人は、幼児が日常の生活で言葉をつかって自分の欲求や主張を伝えざるを得ないような状況を、意図的につくり出さなければならないわけです。ふつう、このような状況は、子供の活動や欲求の発展に応じて自然につくり出されることが多いのですが、とかくすると親は、子供がおかれている状況や身振りから子供の欲求や主張を先取りして理解し、子供が何か言う前にその欲求や主張を満たしてしまいがちです。この場合、親はたいへん親切なことをしているようなのですが、実のところ、子供が言葉を使う機会を封じこんでいるわけで、この積重ねは、結果的に、言語発達遅滞を引き起こすことになってしまうのです。
言語的コミュニケーションを必要とする条件はつくられているが、その発展の条件が欠けている場合。言葉をつかいはじめた幼児の言語能力がいっそう発展するためにはいろいろな条件が必要ですが、主なものとして次の三つをあげることができます。
道具やオモチャ等モノを操作したり、直接または絵本、テレビ等を通していろいろな対象を観察すること等によって、経験を豊かにすること。また、それに応じて、物や人、行為に対する欲求や要求を増大させること。
社会的な交際の範囲をひろげ、肘とかだけでなく同年齢もしくは年上、年下の子供だちと共同で活動する場をもち、その中で言語活動がいっそう活発化されること。
親やその他の大人との交際の中で、より正しいより豊かな言語見本が示され、子供が不十分な表現、誤まった言葉が使われたときは訂正され、より適切なより十分な言葉の使用が促されること。
これらのうちどの一つが欠けてもその発展の障害となりますが、言葉の直接の指導者として親が特に注意しなければならないのです。子供は、言葉の師として、つねに親の発語に注意をはらい、それを手本とします。また、幼児の言葉が誤まっていたり不十分なとき、それを訂正することが期待されているのです。したがって、日常の親の言葉遣いが貧弱であったり、幼児の誤まった表現がそのまま放置されたりすると、幼児の表現は、限られた範囲で固定されてしまいます。幼児 の言葉の発展に応じ、より高い、より豊かな表現を見本として提示し、幼児の表現が不十分の場合、例えば、ミーといってミカンを要求したり、飛行機が飛んでいるのをみて、コーキ、ブーンと言った場合、そのまねするのでなく、はいミカンよ、飛行機がブーンと飛んでるね、と訂正して、より正しい見本を再提示してあげなければなりません。
社会化のもっとも重要な要素である言語の習得が確実に行なわれ、幼児の知的能力の発達が日々に前進していくのは、親のこのような日常的な努力に依存しているといっても過言ではないのです。

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