プログラム学習

一九六〇年過ぎ、プログラム学習という言葉が、当時のジャーナリズムを賑わしたことかあります。これこそ教育の革新を担うもので、大変強力な学習方法だということでした。しかし、宣伝のわりには効果がはかばかしくなかったせいか、やがて、ブームは下火になっていきました。もっとも、地道な実践は続けられていました。
それが、再び、教育界の注目を浴びて、新たな背景の下に登場してきたのが、一九六〇年代の終り頃のことです。今度は、視聴覚教育、放送教育、教育のシステム化などを含む教育工学という新しい学問体系に組み込まれてあらわれたのです。教育工学とは、教育に関連する数多くの要素をはっきりと分析し、それらをうまく組み合わせて、教育効果を最高度にあげようとねらう教育学、心理学、社会学、経営学、工学などの境界領域の実践学です。この中で、プログラム学習は、教育内容を着実に効率的に学習させる一つの学習方法として高く評価されてきたのです。
プログラム学習とは、一口に言うと、ティーチングマシンやプログラムテキストなどによって学習プログラムを提示し、学習者に個別学習をさせながら、無駄なく確実に学習の目標に到達させるための学習方法のことです。そして、学習プログラムというのは、学習の内容を細か砕いて学習しやすいように並べたもので、それを順に学習していけばやかて学習の目標が到達されるものです。ふつうは、問題、説明、正誤などの情報を示す文や記号などの系列です。例えば、まず、ある問題が与えられます。子供がそれに対して答えると、すぐに、その答が正しかったか間違っていたかが知らされ、次の問題が出てくるのです。ときには、解説だけが出てくることもあります。

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このようなプログラムには、大きく分けて二種類のものがあります。一つは直線型プログラムで、問題がやさしいところから始まりすこしずつ難しくなっていくものです。すべての子供が同じ問題の系列をたどって学習するようになっています。元来は、問題に対する回答を子供が自分で指定された回答欄に書きこむのが原則でした。しかし、幼児用としては、多岐選択で答えるものが多いようです。なお、この場合には、一つの問題に対して正しい答が出るまでは学習が先に進まないようになっています。市販されている幼児用ティーチングマ シンのほとんどがこの種のプログラムを使っています。
もう一つは、分枝型プログラムで、かなり難しい問題が出てきます。そして、子供に多岐選択の答を要求します。子供が答えるとそれによってその子供に応じた次の問題を出してやるようになっているのです。正答なら、先の難しい問題にとんでいくし、誤答なら、ヒントを出したり元に戻って、復習したりすることになります。ここでは、一人一人が通った学習のコースを通るのです。
このプログラム学習のおこりは、第二次世界大戦中にアメリカが開発したハト特攻隊だといわれています。戦争末期、日本の神風特攻隊に悩まされた米空軍は、その対抗策として、自らも特攻隊を持とうとしました。けれども、日本よりも人命を尊重していましたから、人間を操縦士として使うかわりにハトを使う研究をしたのです。ハトを特攻機にのせて、親飛行機から日本の軍艦に向けてはなすと、ハトの操縦によって特攻機は標的目ざしてまっしぐらというわけです。この試みは、有名な学習心理学者のスキナーを中心として行なわれ、戦後しばらく、電波誘導技術が確立するまで、生体制御計画として研究されていました。特攻機に乗ったハトは、自分の目の前のスクリーンに機首のレンズをとおして映ってくる日本の軍艦の像をつついていればよかったのです。けれども、日本の軍艦を南海の孤島と区別してつつき続けることは、ハトには至難の芸です。そこで、ハト操縦士の訓練にあたっては、物をつつくやさしい行動から出発して、色、形と徐々に、つつく対象を複雑にしていき、最終的に目本の軍艦ならばどの角度から見てもつつくように訓練していったのです。戦争ですから、一時に数多くのハト特攻隊操縦士を養成せねばなりません。そのため、訓練を機械化しました。この訓練の仕方が、後に人間対象の教育訓練に適用されたとき、プログラム学習とよばれ、そして、機械はティーチングマシンとよばれるようになったのです。
もっとも、ティーチングマシンの方は、一九二〇年にアメリカの教育心理学者プレッシーによって作られた五肢選択のテスト採点機がはじまりとされています。一方、分枝型のプログラムは、アメリカ空軍でクラウダーによって考案された多肢選択式ティーチングマシンにのせられ実用化さ且たのがはじまりといわれています。
プログラム学習が教育訓練にとって有効であるわけは、次の五つの原理によっています。
第一は、学習者の行動に対して正誤の回答が直ちにかえってくることです。そこで、学習者は確信をもって学習を進めていくことができるのです。ところが、ふつうの学校教育や幼稚園などでの教育では、これがなかなか大変なことです。子供が複数いますので、教師の方は、一人一人の子供の行動にすぐに適切な回答をかえすことができないからです。
第二は、学習者が積極的に学習活動をするということです。プログラム学習は、アイテムに対して学習者が反応しなければ進行しないから、たえずプログラムに能動的にとり組むことになります。これも一斉学習ではなかなかうまくいかないことです。教師の話を子供は受動的に聞くことになる場合が非常に多いからです。
第三は、学習者が自分に適したペースで学習を進めることです。一斉学習ではありませんから、自分がよくわかってから次のアイテムに進んでいけばよいのです。
第四は、直線型のプログラム学習ではアイテムの幅が小刻みなことです。そのために、いつも楽に正しい行動をして満足しながら学習ができることになります。分枝型のプログラム学習では、アイテム間の幅がかなり大きいので、間違いもよくおこります。しかし、それでよいのです。聞違いによって、正しい問題解決がひらめくことがあるからです。また、間違うことによって、がんばろうという気がでてくることもあるからです。
第五は、学習者の行動をどう利用するかについてのもので、直線型では、学習者の成績によってプログラムを直すことです。もし、多くの子供が、あるアイテムに対して一斉に間違いをおかしたとしますと、悪いのは子供ではなくプログラムだから、そのアイテムをもっと小刻みにするのです。分枝型では、子供の行動の正誤に応じて、次に進むべきアイテムが決まってくることです。そこで、一人一人個人差に応じた学習のコースがたどられることになります。
このような二つの型のプログラム学習は、それぞれ学習に適した領域をもっているようです。直線型プログラムは、技能の学習や基礎的な知識の習得によいようです。反対に分枝型プログラムは、思考力を深めるのに、また、一歩一歩学習するのに耐えられないような飽きっぽい人に、向いているようです。
もっとも、現実の問題としては、分枝型のプログラムはなかなか作れないし、よいティーチングマシンもできていないので、たいていのプログラム学習は、直線型のプログラムによって行なわれています。この点では、プログラム学習は、思考力を深めるのにも、実際には向いているとは言いにくいようです。その上、プログラム学習は、情操教育や創造性教育のような復雑で高次の教育の領域にまでも有効であるとは言えませんし、集団の中で子供の社会性を培うのにも向いていません。
かといって、プログラム学習は役に立たないというわけではありません。基礎的な技能率知識の習得には大いに有効ですし、その上、プログラム学習を広くプログラム教授として、授業のすべてを、ただ単に教育内容だけでなく、教師の活動、子供の活動、テレビなどの媒体を含めてプログラム化しようという、授業システム化の考えが出てきているからです。
この考え方に立ちますと、アイテムの中に、生きた人間の活動も入ってしまいますので、創造性教育や情操教育、社会性の教育に有効ということになります。

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