個性とは

幼稚園、保育所、遊園地など子供がたくさん集まっているところへ行ってみると、子供たちの一人一人が、じつに多様な姿や態度を示していることに驚かされます。何事にも活発で、積極的に遊びや学習に取り組んでいる子供がいるかと思えば、なにをするにも動作が鈍く、いつも人の後についていくだけの子供もいるし、社交的で誰ともすぐ友達になる子供がいるかと思えば集団のなかでは一言も口を聞かず、与えられた席にいつでも一人で静かに座っている子供もいます。
幼稚園で先生のお話を聞いているときの様子もいろいろです。いつもニコニコうれしそうに聞いている子、真剣な目つきで聞きいっている子、体をぐらぐら動かして落ち着きのない子、口をぽかんと開けてしまりのない顔をしている子、しきりに髪の毛をかきあげたり鼻の穴をほじくったりすることに忙しい子、消しゴムをナイフで切り刻むことに熱中している子、などなど。かつてある心理学者が、子供の個性をみるには、もっている鉛筆箱のなかをみればいい、といったことがあります。彼は次のような例をあげています。長く芯を伸ばしてきれいにに削った鉛筆を長いほうから短いほうへきちんと並べている子がいるかと思えば、短いちびっこ鉛筆ばかり一〇本以上も持っている子、芯の折れた鉛筆ばかりの子、削っていない新しい鉛筆だけをずらりと並べた子もいます。また、消しゴムについても、一人で五つも六つも持っている子、豆つぶみたいな消しゴムを持っている子、いつも隣りの子の消しゴムばかり使っている子、など様々です。そのほか、鉛筆の下に綿やサクラ紙を敷いている子、鉛筆を使うたびに必ずフタをしめる子、鉛筆の上のほうを歯でかじる子、などなど。このような違いに個性が反映しているというのです。
たしかに個性は、顔立ちや服装の違いにも、また、声や話し方、歩き方、遊び方、食べ方、勉強のしかた、おこり方、泣き方、笑い方、文章や文字、絵、趣味など、人のふるまい方や嗜好などに、直接反映 しています。それでは、いったい個性とは何でしょうか。簡単にいえば、その人の持ち味、あるいは、その人を特徴づけている全体像、とでもいったらよいでしょう。
AちゃんはB君やCさんとは違ってあくまでもAちゃんであるというのは、AちゃんにはAちゃんらしい持ち味があって、それがB君やCさんとは違った特徴になっているからにほかなりません。いまあげた子供たちの例でもわかるように、その人を特徴づける要素はいろいろありますが、個性を理解するには、なんといって も、性質とか性格といわれる、その人の人柄ないしは、人となりを見抜くことが大切です。ふつうい快活な人か暗い人か、賑やかな人か落ち付いている人か、しっかりした人か軽率な人か、などという観点から、その人の人柄を知る手がかりを得ることができます。

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人の性質は千差万別ですが、心理学では便宜的に、いくつかの種類(類型)にかけて、はじめに大ざっぱに整理し、のちに実際に、その人らしい特徴(全体像)を理解する、という生き方をとっています。ここでは幼児のことを念頭において、はじめに類型について筒単に説明しておきたいと思います。

第一類型(分裂気質)、非社交的で、最初の印象だけで人を嫌うことが多い。新しいことを始めるのに慎重で、なかなか決心がつかない。お世辞や愛想がいえず、融通がきかない。一人遊びを好む。

第二類型(噪爵質)、どんなタイプの子供とも気軽につき合っていける。何事もあけっぱなしで、秘密がない。お世辞や愛想がうまく、社交上手である。陽気で明るいときと、沈んで気の重いときとがある。

第三類型(粘着質)、一度はじめたことは粘り強くやりぬく。几帳面で、やり方が細かい。頑固で、なかなか人のいうことを聞き入れないところがある。正義感が強く、曲がったことに対しては厳しい態度をとる。

第四類型(偏執質)、利己的で欲が深い。人のことを疑い、なかなか信用しない。自分に都合のいいように物ごとを考えやすい。えらぶったり自慢したりすることが多い。

第五類型(ヒステリー質)、わがままで自分本位の考え方をする。自分を実際以上にみせようとする傾向が強い。くやしがりやで負けず嫌いである。人に対してねたみっぽいところがある。

第六類型(神経質)、弱気で、悲観的な考えをもちやすい。自意識が強く、人の目をひどく気にする。ささいなことを気にし、くよくよすることが多い。感受性が強く、デリケートな神経をもっている。

ただ、子供の場合は性質は流動的であることが特徴で、このような類型にあてはめることは非常に無理なことが多いので、その点に留意しなければなりません。
ところで、個性と知能とのあいだには、どんな関係がみられるでしょうか。幼児についてその関係をみた研究はほとんどありませんが、小学生以上の子どもや青年についての調査をみますと、その関係にはあまり積極的な意味は見出されていないようです。しかし、問題事態に直面したときに、慎重な態度をとるか、それとも試行錯誤をくり返し、うまくいかないと暴発するか、あるいは執念深く解決を試みるか、それともすぐあきらめて投げ出してしまうか、といったふるまい方の違いは、かなり明確にみられることが多いものです。そこで、例えば、知能が高く創造性の豊かな人と、知能が低く融通性に乏しい人とを比較した場合、そこには個性の違いがみられるのではないか、という推論がなり立ちます。
アメリカの心理学者アン・ロウはそういう観点から、創造的活動に多くの業績をあげた科学者や芸術家に面接し、ロールシャッハ・テストやTATなどを実施して、その特徴を探ってみたところ、次のような点が明らかになったと述べています。
非常に自律的で、自尊心が強い。自我が強く、ものに動じない。性格さを好む。衝動的でなく、抑制的である。口数が少なく、社交的でなく、自己支配的である。抽象的な思考を好む。知的な活動に対しては、子供のときから、非常に広い興味をもっている。努力すればできることには、自分を賭けてみる気になる。など
一方、知能の低い人、例えば精神薄弱児には、固執性が強く、頑固で、なかなか人のいうことをきき入れないところがある。被暗示性が強い。単純で、ほめられるとすぐ得意になる。刺激にはすぐ反応し、動じやすい。融通性がなく、一か八かという割り切り方をする。動作が緩慢で、臨機応変に事態に対処することが難しいなどの特徽がみられることが多いようです。しかし、まったく反対の特徴を示す人もいますので、十把一からげに説明することはできません。
良い個性、悪い個性という分け方が許されるとすれば、人のいいなりになるとか、権威に弱く、それに無批判に従うとか、人の弱点をあばいて喜ぶ、といった傾向は、悪い個性に属するといってよいでしょう。アメリカの社会心理学者たちが明らかにした権威主義的人格などは、さしずめ悪い個性にもっとも関係深いといえましょう。
それでは良い個性とは何でしょうか。たいていの親は、素直で、はきはきしていて、すすんで集団生活に参加し、誰からも可愛いがられ、いつも明るく、社会に適応していける、そんな子供こそよい個性をもった子供だ、と答えるかもしれません。この答えには捨てがたい特性もありますが、強い個性とはじつは、既成の社会からはみ出るところにみられることが多いことを考えるならば、あまりにも現状を肯定し、親の都合のよい個性を求めるのは、正しい個性教育とは背馳したものになっていく恐れがあります。
オルテガが述べたように、つくり出す喜びを体得することが人間にとって最大の喜びであるとすれば、現状を否定し、社会の権威主義を打ち破って、積極的に豊かな社会をつくり出していく姿勢こそ、子どもたちに望まれることでしょう。そのような姿勢を中心とした子供の全体像を「創造的個性」と呼ぶことができます。創造的個性は、好奇心が強く、発想が豊かで、既成の観念にとらわれたりこだわったりしない斬新さがあり、たえず創意工夫し、しかも実行力に富む、といった特徴によって説明することがでぎます。

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