外での躾

 私の家へ、五歳の男の子を連れたお母さんが、所用でやってきました。
 この子は、はじめキョロキョロと部屋の中を見回していましたが、しばらくすると、椅子からテーブル、テーブルから棚の上と飛び移り、大声で騒ぎたてるのです。クッションや雑誌を放り投げ、戸棚の品物を引っぱり出して、そこへ自分が潜り込む。お母さんはびっくりして「ダメ、ダメ」の連発です。
 聞いて見ると、他家へ連れ出したのもはじめてなら、こんなこともはじめてで、家では、むしろおとなしいタイプで、乱暴なことは怖がる方だといいます。
 おそらく、子どもは見知らぬ環境で、驚いたり、緊張したり、不安になったりして、興奮状態に陥ったのでしょう。一般に、子どもは、不慣れなところが恐ろしいのです。そして、恐ろしいと、興奮したり、攻撃的になったりする子どもがいます。この子もそのタイプ。
 私は、お母さんに子どもをしっかり抱きしめてあげるようにアドバイスしました。お母さんの腕の中でしばらくキョロキョロしていましたが、そのうち落ち着き、帰る時はニコニコと笑顔を向けてくれるようになりました。
 こんなことがあると、お母さんは子ども連れの外出がいやになってしまいますが、連れ出さなければ、いつまでたっても慣らすことはできません。遊園地や知り合いの家など、気楽なところからはじめて、だんだん、目新しい慣れない所へ連れ出し、外の環境に対する抵抗力をつけるようにします。
 といっても、講演会や音楽会など、長時間じっとしていなければならない場所は、幼児には不向きです。

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 子どもでも、多少、内づらと外づらがあって、その場その場にふさわしい態度をとるのが普通です。ですが、これが極端に違う子どもがいます。前記の不慣れではなく、ほかに原因があることが多いようです。
 例えば家の中のいい子が、外へ出ると手のつけられない困った子になる。調べてみると、親の扱いが非常に厳しくて、子どもは、家の中で極度に緊張し、一生けんめいいい子になっている。だが、外へ出た途端に、そこを息抜きの場、解放の場にしてしまって、野放図に暴れ、脱線のしっぱなし。
 あるいは、家では兄弟に対する嫉妬があって、楽しくない。親も味方になってくれない。と、この不平不満を外へ持ち出して、発散するという子どももいます。
 逆に「外ではちゃんとなさい」とやかましく言われ、そのうえ幼椎園や学校の指導も厳しく萎縮している子には、外でいい子で、家へ帰ると当たり散らして発散する者もいます。
 あるいは、気弱で友だちの中で小さくなっているようなタイプも、家が息抜きの場になり、暴れたりします。
 躾を考える前に、このような子どもの心のあり方に目を向けて、安定感をとりもどしてやることが必要です。躾は、それから後ということになるでしょう。
 外でだだをこねて自分の要求を通した経験のある子どもは、その後たびたびこの手を使うようになります。いわば効果的な方法だからです。
 したがって、親としては、日ごろの指導の方針どおりに扱うことがコツで、外で例外を認めてはなりません。親は、こんな所で泣かれては大へん、だだをこねられては困ると、人目を意識して、つい要求を通すのですが、むしろ、人目を意識するなら、みんなが納得するようなちゃんとした躾をした方がいいのです。たとえ泣かせても、きちんとした指導をしているのを見れば、世間の人も安心し、さわやかな気分になります。
 なにしろ、最近は「近ごろの親は子どもがなにをしてもしからない」という悪評が高いのですから。
 しかし、大声で子どもを叱っているのは、だれが見ても感じのいいものではありません。物陰に連れていって、子どもを抱きかかえ、目線を同じ高さにして、本気で真剣に注意してください。子どもは、言葉よりも、親の態度に打たれます。本気でやらせる気のないような注意の仕方では、かえって、子どもは図に乗ってしまうでしょう。
 さらに、起こりそうな問題が予想できるときは、あらかじめ子どもと約束して出かけるのもいい方法です。三歳過ぎの子どもならちゃんと約束を覚えていますから。きちんとした態度で「約束、覚えているの」と注意するだけですむことも多いはずです。
 躾は一貫性が大切ですが、外で他人がいると、とかく混乱が起こりやすいものです。例えば、子どもが転んでも抱き起こさないで、一人で起き上がるように躾ていても、外で転ぶと他人が起こしてしまうことがあります。ある母親は「うちは一人でさせていますから起こさないで」と、その手を払いのけたとか。
 しかし、こんな時こそ、他人の親切に感謝することを教えるチャンスではないでしょうか。
 「ありがとう」とお礼を言うように躾けるべきです。一貫性がなくて危ないのは、親が猫の目的に変わる場合で、他人の場合ではありません。
 よその子を抱き起こすのも人の自然な感情、「ありがとう」と感謝するのも自然な感情、あまり不自然なことはしない方がいいでしょう。

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